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取材・文/坂口鈴香

きぬさらさんによる写真ACからの写真

井波千明さん(仮名・55)の義父母は二人暮らしをしていたが、相次いで認知症になった。さらに義母が硬膜下血腫で手術したのをきっかけに、二人暮らしを続けることを断念。井波さん家の近くのサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)に入居することになった。

【3】はこちら

自宅だったら進行はもっと穏やかだったのでは

そのサ高住に決めたのは、井波さんの夫の「多分どこも大差ないだろう」という言葉だった。資料はいくつか見比べたものの、見学したのはこのサ高住だけだったという。

「屋上に野菜や花を植えるスペースがあったので、ここで少しでも活動的に過ごしてもらいたいと思ったんです」

井波さんが一番心配していたのは、環境が変わって義父母の認知症が悪化しないかということだった。

「入居当初、義母は硬膜下血腫の影響が残っていました。回復していくにつれて、知的にも身体的にも前より改善されていったので、サ高住に入ってよかったと思ったこともありました。でも、回復のピークを過ぎてからは、同じことを聞いてくる間隔がどんどん短くなっています。比べることはできないので断言はできませんが、自宅で暮らしていれば進行はもっと穏やかだったのではとも思います」

義父の認知症の進行はさらに早い。

「認知症に加えて、身体能力の低下が顕著です。義父が自分でやれることでも、施設側が危険を回避するために止めるケースもあって、それはどうしようもないとあきらめるしかないですね」

スタッフに不満は伝えられない

実は、スタッフにも不満があると明かす。

このお正月のことだ。

「お正月は例年実家で過ごしていたのですが、今年は義父の体調を考え、実家に帰るのをあきらめて、日帰りで我が家で過ごすことにしました。久しぶりにみんなで会って楽しく過ごしていたのですが、不穏な臭いがしてきたんです。義父をトイレに連れていくと、下痢のような便が大量に出ていました。きれいにしたいけれど、義父は足が不自由なので、どうやって拭き取ればいいのかわからず悪戦苦闘しました」

井波さんの奮闘むなしく、ほとんどきれいすることができず、サ高住に連れて帰るしかなくなった。

「大急ぎで戻りましたが、その途中でもまた便が出ていました。サ高住に着くと、スタッフの方が手際よくきれいにしてくださいました。義父を便座に座らせて、ペットボトルに入れたお湯をかけて、イヤがっている義父には上手に声をかけながら作業を進めてくださって、プロってすごいと改めて思いました。しかも元旦です。まるで普通の日のようにこの方たちは仕事をされているんだなと、頭が下がりました」

ところが、後日、義父はその日下剤を飲んでいたことがわかったのだ。

「サ高住に連れて帰って『便が出てしまいました』と伝えたとき、その日処置してくださったスタッフとは別の男性スタッフが『そうじゃないかと思ってたんですよ』と言ったんです。その言葉が引っかかっていたんですが、その後、義父はもともと便秘がちで定期的に下剤を飲んで便を出していると、義父が通っているデイサービスのスタッフから聞いたんです。あのときの言葉はそういうことだったのかと、むらむらと怒りがこみ上げました」

そういえば、義母もその男性スタッフを指して「あの人は嫌い」と言っていたのを思い出した。

「施設のスタッフも人間なので、いじわるな人もいるでしょう。でも義父の外出の予定はずいぶん前から伝えていたはずです。どうなるかわかっていて、下剤を飲ませたということですよね。それに下剤を服用させるのは看護師さんのはず。施設の配慮が足りてないのではないかとも思っています。でも、スタッフにはお世話になっているので、こちらから不満を伝えることはしていません。できませんね」

【5】に続きます

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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