取材・文/坂口鈴香

迫田留美子さん(仮名・49)は、南九州で一人暮らしをしていた夫の父親(87)を関西に呼び寄せ、同居して1年半になる。夫が高校生のときに父親の酒と暴力が原因で両親が離婚し、母親は早くに亡くなっていた。義父との付き合いはほぼなかったが、認知症と糖尿病を抱える義父の面倒をみていた叔父が倒れたため、関西に呼んで同居することを決めた。

同居してみると、認知症以上に血糖値測定やインスリン注射、糖尿病食などの糖尿病ケアが大変で、迫田さんは「もう何もしたくない」と追いつめられてしまう。とうとう義父は肺膿瘍を起こして入院してしまったが、無事生還。医師に訴えて注射の回数を減らしてもらうと、迫田さんは前向きな気持ちを取り戻した。

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義父を笑わせたい

義父との毎日が復活した。義父は週4回デイサービスに行き、2週間に1回訪問看護を受けている。

「私が義父の介護生活で心がけているのは、義父を笑わすこと。九州男児だからか、まったく笑わないんです。『へッ!』と言うのが笑っているのかな、という程度。もともと私は面白いことが大好きで、昔から何を見ても一人でゲラゲラ笑っているタイプ。ものごとはとらえ方一つでも笑えると思ってるんです。義父がやってきた暴力は何も生まないけど、笑いはたくさんのものを生み出すことができると思うんです」

義父と同居して、「過去の義父と同一人物なんだろうか?」と思うくらい良い人だと思えるという。

「私にはにこやかで申し訳ないくらい。私のことは親切な女の人とか、逆らえない人、と思ってるんやないでしょうか」

酒も飲まなくなった。「水か焼酎かわからないみたいです」と笑う。

家族との関係も良好だ。

「娘たちは皆おじいちゃんが大好きで、『おじいちゃん』と接してくれているのを見ると幸せになります。家族5人で暮らすのが刺激になっているのか、認知症も進んでいません」

とはいえ、迫田さんの気持ちにも浮き沈みはある。

毎朝、義父が起きてくると「もう……起きてきはったやん」と思う。義父は早朝、起きてすぐにリビングに来て、大音量でテレビを見る。しかも、そのリビングは迫田さんの寝室でもあるのだ。

子どもがいて、そこに義父も同居しているというから、部屋数の多い家なのだろうと思っていたのだが、聞いて驚いた。

「自宅は狭いマンションなんです。主人の部屋に義父と主人が寝ていて、リビング横の部屋に娘が、私はリビングの端っこに布団を敷いて寝てるんです」

迫田さんが「もう起きてきはったやん」と思うのも当然だ。そしてすぐに血糖値測定の“仕事”に取りかからねばならないのだ。

【父を介護させてしまい、すみません。次ページに続きます】

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