中村彜《静物》〔1912(大正元)年頃、福岡市美術館蔵〕

中村彜『静物』〔1912(大正元)年頃、福岡市美術館蔵〕

卓上の果物や花瓶にいけられた花は日本でも昔から絵画に描かれてきましたが、それが「静物画」として知られるようになったのは、19世紀後半以降のこと。西洋から導入されたこうした画題は、実物を忠実に再現し構図を練るための格好の訓練になり、絵の入門者にも取り組みやすいジャンルとして普及しました。

一方で、詩人・彫刻家・画家の高村光太郎(1883~1956)のように静物画を自己表現の絵画として捉える認識や、洋画家の岸田劉生(きしだ・りゅうせい、1891~1929)のように、宗教絵画に代わる画題として、人間と芸術の関係性を問う画題と捉える認識が多くの画家たちを刺激しました。

そんな明治から昭和初期にかけて活躍した画家による静物画約80点を通じて、近代日本の静物画の魅力に迫る展覧会「物・語(ものがたり)   日本近代の静物画」が5月14日(土)から福岡市美術館で開催されます。

本展は、「静物画とは、身近な事物を描くという最も単純な契機が画家たちをそれぞれの制作の出発点へと立ち返らせ、新しい物語を紡ぐように制作されたもの」という観点に立ち、近代日本における静物画の在りようを問うものです。その見どころを、福岡市美術館・学芸員の吉田暁子さんにうかがいました。

「果物や花、日常雑器などを描く静物画は、分かりやすい反面、面白みに欠けるジャンルと考えられがちではないでしょうか。近代の日本においてもそのような見方は静物画について回りました。
しかし実際には、身近な事物を自由に配置できる静物画は「なぜこれがここにあるのか」「どうしてこのようになっているのか」という問いを画家に認識させる画題でもあり、日常的な用途を離れて事物を描くという行為にのめりこんだ画家が、類例のない表現に辿り着いたケースは数多く存在します。
静物画という画題の歴史が浅かったことは、日本においてむしろ型にはまらない表現が生まれる条件を準備したとも考えられるでしょう。多様な静物画を紹介する本展が皆さんにとっても、身近であるはずの事物を見つめ直すような新鮮な体験になればと願っています」

日本で最初の洋画家といわれる高橋由一(1828~1894)から、女性芸術家のパイオニア的存在である桂ゆき(1913~1991)まで、静物画の名作をじっくりご鑑賞ください。

【物・語(ものがたり)-近代日本の静物画-】
会場/福岡市美術館
会期/2016年5月14日(土)~7月3日(日)
住所/福岡市美術館:福岡市中央区大濠公園11-6
電話番号/092・714・6051(代表)
料金/一般1200(1000)円 大高生800(600)円 ( )内は前売及び・満65歳以上の割引料金
開館時間/9時30分から17時30分まで、7月1日、2日は19時30分まで(入館は閉館30分前まで)
休館日/月曜
アクセス/地下鉄空港線で大濠公園駅3・6番出口より徒歩約10分、地下鉄七隈線で六本松駅2番出口より徒歩約10分

 

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