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蕎麦(そば)

うどん県の香川に「うまい蕎麦」はあるのか?【片山虎之介の「蕎麦屋の歩き方」第38回】

香川県といえば、「うどん県」を名乗るほど、うどんへの思い入れの強いところだ。

私は蕎麦だけでなく、うどんも大好きだが、いったいこの「うどん県」で、蕎麦はどのように扱われているのだろうかと気になり、様子を見に出かけた。

香川県に、まんのう町という小さな町がある。あと10分も車で走れば、隣りの徳島県に入ってしまうという山間の町。ここに『谷川米穀店』という、小さなうどん屋さんがある。営業時間は「11時前から13時過ぎ」と、かなりあいまいな表示がしてある。昼の2時間前後しか営業しない店だ。

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2時間ほどしか営業しない『谷川米穀店』の店内。開店と同時に席は客でうまる。

ここのうどんを食べて驚いた。讃岐うどんの人気店は、あちこち食べ歩いたが、これほどの味に出会ったのは初めてだった。

何がすごいかというと、とにかく麺と卵の黄身と醤油のバランスが見事なのだ。麺も美味しいが、それを補佐する卵は、このうどんに合わせて鶏の餌から調合したのかもしれないと思うくらい見事に調和している。そして醤油は、四国のあらゆる醤油を吟味して、このうどんと黄身に合うものを選んだに違いないというほどのバランスのよさなのだ。

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『谷川米穀店』では、毎日その日の分だけ、仕込んでおいた生地を手打ちする。平日1日450玉、土曜・祝日は600玉で終了。うどん(小)は約200gで150円。生卵は1個50円。

私は、あまりの美味しさに感動して、カウンターの中で丼にうどんを盛っている女将さんらしき女性(谷川シゲ子さん)に、声をかけずにはいられなかった。

「素晴らしい味ですね。手打ちで作られるのですか?」

シゲ子さんは手を休めず、笑顔で答える。

「そうですよ。朝6時すぎから練り始めるんです。のして切って、全部手でやります。昔ながらの方法でね。うちのうどんは、みんな、ここにいるおばあちゃんが考えて作ったんですよ」

隣りで葱を切っている女性が、店主の谷川豊子さんだ。うどんと卵と醤油はどうやって選んだのかという質問に返ってきた豊子さんの答えは、うどんの美味しさ以上に私を驚かせるものだった。

「卵も醤油も、特別、選んだわけじゃありません。裏の商店で売ってるものを使っとるだけです」

土器川(どきがわ)の崖のふちに立つ『谷川米穀店』から、斜面を少し上がると国道に出るが、そこに小さな商店がある。卵も醤油も、その店で買ったものだというのだ。

私は言葉が出なかった。麺、黄身、醤油の、この絶妙のバランスは単なる偶然だというのだろうか。優れた食材がまんのう町では日常的に流通しているかという証明でもあるのだろうが、まったく信じられないようなことがあるものだ。

この驚きの味を作り出した豊子さんに、美味しいうどんを作るには何が大切なのかを聞いてみた。

「ここは水が、ものすごくええところだと思います。土器川の源流の水やなかったら、こういう、うどんは出来んです。うどんは、水にものすごう左右されます。それと、作るときに入れる塩の量は大切ですね。その日の温度によっても塩を加減しますし、今の塩の量を決めるのに2年かかりました。でも、うちはただ、麺を提供するだけなんです。お客さんは、それを好きなように食べます。お醤油、ようけ(たくさん)かける人がおったり、お酢をかける人もおったりね。皆さん、ご自分の味で食べられるからおいしいんですよ」

謙虚に語る豊子さんだが、身近にある優れた食材を最高のバランスで組み合わせ、最終的に料理として客の前に出すのは、やはり料理人のセンスだろう。

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土器川上流の川沿いに立つ『谷川米穀店』。開店前から客が列を作る。

豊子さんの天賦の才が作り上げた、驚異のうどんの味を求めて、『谷川米穀店』の前には毎日、開店前から長い行列ができる。それを見て豊子さんは、「あんまり待ってもらうのも気の毒だから」と、「10時半ころ」に店を開ける。この店が開店時間を「11時ころ」と、あいまいに表示しているのは、そういう意味なのだ。

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