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ミュージカルとジャズの「仲のよさ」を感じる コール・ポーターの名曲「ナイト・アンド・デイ」【ジャズを聴く技術 〜ジャズ「プロ・リスナー」への道21】

文/池上信次

第21回ジャズ・スタンダード必聴名曲(11)「ナイト・アンド・デイ」

フレッド・アステア『ザ・フレッド・アステア・ストーリー』

フレッド・アステア『ザ・フレッド・アステア・ストーリー』

今回からしばらくは、第12回からのジョージ・ガーシュウィンの続きで、「ジャズを聴くなら絶対知っておきたいジャズ・スタンダードの名曲・名演」を紹介していきます。今回は、ガーシュウィンと並んで多くのジャズ・スタンダードを残したコール・ポーターの楽曲を聴いていきましょう。ポーターは作詞作曲の両方を手がける才人で、ミュージカルだけでなく映画音楽でも大活躍し、アメリカン・ポピュラー・ミュージック全般に大きな影響を残しました。

作詞作曲の両方を手がける才人コール・ポーター

コール・ポーターは1891年にインディアナ州の富豪の家に生まれ、幼少の頃からピアノとヴァイオリンを学び、エール大学とハーバード大学で法律を専攻していましたが、音楽家の道を歩みます。1915年に初めてブロードウェイ・ミュージカルに楽曲を提供し、作家として活動を開始しますが、翌16年のミュージカルは15回で打ち切られるなど、最初はなかなか認められませんでした。それからフランスに渡ってバレエ曲の作曲などの活動を続けるもののヒットには恵まれず、20年代の後半にアメリカに帰国します。

そして、ふたたびブロードウェイで活動を始め、30年にミュージカル『ザ・ニューヨーカー』のために書いた「ラヴ・フォー・セール」が大きな注目を集めたりもしましたが(その理由は次回で紹介します)、最初のヒットは32年に手がけた『ザ・ゲイ・ディボース(陽気な離婚)』でした。このミュージカルは248回上演というロングランとなり、その後ロンドンでも公演。さらに34年には同名で映画化されて(日本公開タイトルは『コンチネンタル』)そちらもヒットし、ポーターはミュージカル作家として広く知られるようになりました。

この『ザ・ゲイ・ディボース』のステージと映画は、ともに主演はフレッド・アステアでした。ミュージカルも映画も多くの楽曲が使われるのが一般的ですが、このミュージカルと映画の両方で使われたのは「ナイト・アンド・デイ」1曲だけでした。つまり、この曲はヒット・ステージのイチオシの曲だったのですね。「夜も昼もあなたを愛している」というこの熱烈なラヴソングは、映画での素晴らしいダンス・シーンもあいまって、アステアの代表的な「持ち歌」として知られることになったようです。(ポーターの40年代の作品は、すぐにジャズ・スタンダードとなったものが多いにもかかわらず)そのせいもあってか当時ジャズマンには、多くは取り上げられませんでしたが、50年代に入るとこぞってレパートリーに加えられ、ジャズ・スタンダード曲となりました。きっかけとなった演奏があるのかは判然としませんが、ポーターの楽曲全般が注目されるようになったのかもしれません。

ポーターの楽曲はユニークなコード進行やドラマチックな転調があったり、また歌詞の内容もさまざまな解釈ができたりと、アドリブ演奏でもヴォーカルでもジャズの素材としてたいへん優れていると現在では認識されています。この「ナイト・アンド・デイ」は、現在ではポーター作の代表的なジャズ・スタンダードとして知られています。ジャズ・ファンなら絶対に聴いておきたい、ミュージカルとジャズの「仲のよさ」を象徴する楽曲といえましょう。

「ナイト・アンド・デイ」の名演収録アルバムと聴きどころ
(1)フレッド・アステア『ザ・フレッド・アステア・ストーリー』(ヴァーヴ)
フレッド・アステア『ザ・フレッド・アステア・ストーリー』

フレッド・アステア『ザ・フレッド・アステア・ストーリー』

演奏:フレッド・アステア(ヴォーカル)、チャーリー・シェイヴァース(トランペット)、オスカー・ピーターソン(ピアノ)、バーニー・ケッセル(ギター)、レイ・ブラウン(ベース)、アルヴィン・ストーラー(ドラムス)
録音:1952年12月

フレッド・アステアはダンサーで俳優。歌はその次というところですが、その「味」はじつにジャジー。アステアが歌った「ナイト・アンド・デイ」のレコードは1932年にも出ていますが、ここはジャズマンと共演しているところが聴きどころ。おそらくはぶっつけ本番で、とくに凝ったアレンジはされていません。だからこそアステアはミュージカル・アクター(しかもオリジナル・キャスト)として、ピーターソンらはジャズマンとしての「素」が出ており、「ミュージカル曲」にそれぞれがどう接しているかが見えてくるかのようです。またそれによって「曲のよさ」もよりはっきりと聴こえてくるでしょう。

(2)『アニタ・オデイ・スウィングス・コール・ポーター・ウィズ・ビリー・メイ』(ヴァーヴ)
アニタ・オデイ『シングス・コール・ポーター』

『アニタ・オデイ・スウィングス・コール・ポーター・ウィズ・ビリー・メイ』

演奏:アニタ・オデイ(ヴォーカル)、ビリー・メイ(編曲・指揮)
録音:1959年4月2、9日

アニタ・オデイとビリー・メイ・ビッグ・バンドによるコール・ポーター曲集。アニタはこの曲をヴァースから歌いますが、テーマに入ると超アップ・テンポでグイグイとスイングしていきます。オリジナルとは大きくかけ離れたイメージですが、どんなにアレンジしても楽曲の根っこのイメージが変わらないところがコール・ポーターの魅力のひとつということがわかります。強烈なドライヴ感でビッグ・バンドをリードするアニタの自由自在のフェイクも炸裂。あっという間の2分とちょっと。

(3)チャーリー・パーカー『ナイト・アンド・デイ』(ヴァーヴ)
チャーリー・パーカー『ナイト・アンド・デイ』

チャーリー・パーカー『ナイト・アンド・デイ』

演奏:チャーリー・パーカー(アルト・サックス)、ジョー・リップマン(編曲・指揮)
録音:1952年3月25日

チャーリー・パーカーには珍しいビッグ・バンドでの演奏。40年代のパーカーはどんな曲でも「素材」の扱いにしてしまっていましたが、この時期はしっかりと「曲」を演奏しています。テーマはビッグ・バンドがメインのアレンジになっていますのでパーカーはサビ以降は吹きませんが、ぶっといトーンは強烈にメロディを印象づけます。もちろんアドリブは絶好調、この曲はアドリブの素材としても名曲なのですね。

(4)『スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス』(ヴァーヴ)
『スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス』(ヴァーヴ)

『スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス』

演奏:スタン・ゲッツ(テナー・サックス)、ビル・エヴァンス(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)
録音:1964年5月6日

スタン・ゲッツとビル・エヴァンスの共演セッション。メロディを生かしたセンシティヴな演奏も激しいアドリブもどちらもオーケイのふたりですが、この曲では「アドリブ」のほうでいきました。それもとびきり熱い方向で。当時ジョン・コルトレーンのグループにいたエルヴィン・ジョーンズの激しいプッシュのせいもありますが、「ナイト・アンド・デイ」がこれほどアドリブの「燃料」になるなんて、きっとポーターも想像していなかったことでしょう。

(5)ジョー・パス『ヴァーチュオーゾ』(パブロ)
ジョー・パス『ヴァーチュオーゾ』(パブロ)

ジョー・パス『ヴァーチュオーゾ』

演奏:ジョー・パス(ギター)
録音:1973年8月28日

ジョー・パスの『ヴァーチュオーソ』は、無伴奏ソロ・ギター演奏集。10数枚もあるパスの看板シリーズですが、この「ナイト・アンド・デイ」はその1作目の1曲目。つまりいちばん気合いを入れたであろう演奏。そう思わせる、ギター1本とは信じられない唖然とする技が連続しますが、パスはそれを余裕で楽しんでいるかのよう。「ナイト・アンド・デイ」には、それを受け止める懐の深さがあるのですね。

※本稿では『 』はアルバム・タイトル、そのあとに続く( )はレーベルを示します。

文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。近年携わった雑誌・書籍は、『後藤雅洋監修/隔週刊CDつきマガジン「ジャズ100年」シリーズ』(小学館)、『村井康司著/あなたの聴き方を変えるジャズ史』、『小川隆夫著/ジャズ超名盤研究2』(ともにシンコーミュージックエンタテイメント)、『チャーリー・パーカー〜モダン・ジャズの創造主』(河出書房新社ムック)など。

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