選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
日本のみならずアジア全域における伝統文化、宗教、美術などを題材に、ヨーロッパの前衛音楽の技法を駆使して作曲する西村朗(1953年大阪生まれ)の音楽が、今ますます面白くなってきている。
最新アルバム『シェーシャ[聖蛇]』は、現代音楽の世界で40年以上もの間、最先端を走り続けるアルディッティ弦楽四重奏団が演奏している。その過激な音の乱舞を耳にして、こんな幻覚的で魔訶不思議な音楽も世の中にはあったのかと驚かれる向きもあるかもしれない。
シェーシャとはインド神話における超巨大なヘビのことで、千の頭を持ち、世界の原初の混沌の海を撹拌して様々なものを生み出し、最後には不死の霊薬とされる聖水を生むのだという。それが音楽になるというだけで、面白いではないか。寺社や仏像や日本伝統絵画を愛するサライ読者にもぜひ知っていただければと思う。
【今日の一枚】
シェーシャ[聖蛇]
アルディッティSQプレイズ西村朗(西村朗作品集19)
発売:カメラータ・トウキョウ
電話:03・5790・5565
2800円
※参考動画(ユリシーズ・カルテットによる演奏)
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2019年4月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。