選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

もっとも重要な音楽的出来事は、常にジャンルの境界線上で起こる。1966年にドイツで生まれ英国で育った作曲家マックス・リヒターの音楽もそのひとつだ。

ヨーロッパ音楽界を席巻しているリヒターの代表作『ブルー・ノートブック』(2004年発表)が、ようやく日本国内盤としても発売された。基本はクラシックの室内楽の静けさだが、ロックや現代音楽の影響も加わり、まったりとした海の底のような重低音、カフカなどの文学テキストの朗読、自然界の音とあいまって、詩的な響きに浸ることができる。

これはただの癒しの音楽ではない。当時この作品が創作された直接のきっかけは、米国のイラク侵攻への反戦デモだが、そのテーマはもっと幅広く、戦争に限らずあらゆる次元の暴力に反対するというものであった。

暴力に傷ついたすべての人々に向けられた、これは悲しみの治療行為のような音楽である。

【今日の一枚】
ブルー・ノートブック
マックス・リヒター
発売:ユニバーサル ミュージック 
電話:03・4586・2341
1800円

文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)

※この記事は『サライ』本誌2019年4月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。

 

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