選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)

ギリシャ出身で西シベリアのペルミを本拠に活躍する指揮者テオドール・クルレンツィスは、いまクラシック音楽界で最も注目される風雲児ともいえる存在である。彼のオーケストラであるムジカエテルナとの演奏は、尋常ならざる集中力によって、バロック音楽からオペラやバレエ、宗教音楽にいたるまで、いまや世に問うすべての演奏が注目の的となっている。

そのクルレンツィスが、ついに『マーラー:交響曲第6番イ短調《悲劇的》』を録音した。

冒頭の突き刺すような行進曲のリズムと弦の表情の緊迫感からして、20世紀の大破局を最初に予感した交響曲であることが、あるいは個人の内面の痛みをえぐるような交響曲であることが、生々しく伝わってくる。だがクルレンツィスは、この交響曲のなかに感じられる「闇」は、私たちを守ってくれる避難所となるようなものでもあると語っている。

実に深い、味わうべき1枚である。

【今日の一枚】
マーラー:交響曲第6番イ短調《悲劇的》
テオドール・クルレンツィス指揮 ムジカエテルナ

マーラー:交響曲第6番イ短調《悲劇的》

発売/ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
http://www.sonymusicshop. jp
2600円

文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)

※この記事は『サライ』本誌2018年12月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。

 

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