選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
北欧の音楽は、ジャンルを問わずどうしてこれほど魅力的なのだろう。1951年スウェーデン出身のジャズ・ピアニスト、ラーシュ・ヤンソンの演奏を聴いていつも感じるのは、涼やかな抒情性と、底に秘めた心温かさである。
聴き手の心の隙間にスッと入り込んでくるような美しいメロディは、自らのピアノ・トリオとしての3年ぶりのオリジナル・アルバム『ジャスト・ジス』でも堪能できる。禅やヨガや心理学に造詣の深いラーシュの音楽は、一言でいうなら大人の「達観」である。
ジャズとは今やあらゆる民族や国境をこえて共有される世界音楽言語のひとつであるが、ラーシュ・ヤンソン・トリオの風格ある演奏を聴いていると、穏やかでバランスのとれた明澄な精神のあり方へと人をいざなうことも、またジャズなのだと思えてくる。
不安を取り除き、人生のありのままを受け入れ、安心して帰ってこられる場所のような音楽が、ここにはある。(>>試聴できます)
【今日の一枚】
ジャスト・ジス
ラーシュ・ヤンソン・トリオ
発売:スパイスオブライフ
電話:0557・88・3520
2400円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2019年3月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。