取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ただの乗り物なのに、不思議と人の心を魅了する自動車とオートバイ。ここでは自動車やオートバイを溺愛することで歩んだ、彩りある軌跡をご紹介します。
転職を機に、茨城県から実家のある千葉県へと戻った秋葉孝匡(59歳)さん。様々なオートバイを所有し、ツーリングを楽しむ日々を送っていたのですが、30歳を前にして、心境と環境に大きな変化が訪れます。
重荷に感じたオートバイを処分。最後に残した1台はZ1だった
「レビンを売ったお金で、まず“OW01(オーダブリュー)”(ヤマハ『FZR750R』の通称)を買いました。次に会社近くのオートバイ専門店で“Z2(ゼッツー)”(カワサキ『750RS』の通称)を見かけ、色んな漫画に登場したZ2はどのようなオートバイなのかを知りたくて買いました」
他にもヤマハの『RD400』にスズキの『ハスラー』、カワサキの『750SSマッハⅢ』、『Z1(ゼットワン)』を購入。後にOW01を売却して『ドゥカティSP3』と入れ替えます。またZ1とドゥカティを酷使しないため、日常の走行用にカワサキの『ゼファー750』を購入しました。
多いときには一度に8台ものオートバイを所有し、乗り比べるようにオートバイ趣味を満喫する秋葉さん。ところが30歳を前にして、多くのオートバイを所有し続けることに重荷を感じ、Z1を残してすべて売却します。この後、20年もの間、オートバイを増車、あるいは買い換えることなく、Z1を乗り続けます。
オートバイの整理をした年、秋葉さんのクルマ趣味にも大きな変化が訪れます。
納車後30分でトラブル発生、旧車の洗礼を受ける
会社近くの環状道路沿いで、何台ものロータス『ヨーロッパ』が飾られている輸入自動車専門のショップをみつけた孝匡さん。好奇心から立ち寄り、マスターと顔なじみになります。
「ある日、冷やかしでショップに顔を出したら、店長に「おまえ、ヨーロッパが欲しいのか?」って聞かれたんです。店頭に並ぶヨーロッパには400万とか500万の値札がついていたので、「欲しいけど、とてもじゃないが買えない」って答えたら、「ちょっと来い」ってショップの裏に呼ばれました。そこにあったのは年式相応に痛んだヨーロッパで、「お前の出せる値段に合わせて修理して、売ってやる」って、持ちかけてくれました。それまで「絶対に乗れない」と思っていたスーパーカーが手の届くところに降りてきたんですから、買っちゃいますよね」
秋葉さんは、出せるだけの額を提示。店長も受け入れて商談は成立します。それから半年ほどで納車整備は終了。ショップにて手続きを済ませ、秋葉さんは晴れてヨーロッパオーナーとなります。しかしヨーロッパに乗っての帰り道、首都高でエンジンが不調になり急遽、ショップへUターンすることに。エンジンの停止におびえながら、旧車を所有することの難しさを思い知らされます。
その後もヨーロッパは度々、不調となり、その都度、修理を依頼。補修部品の欠品が出た際には、2年間もショップに預けることとなりました。
ヨーロッパが手元にないことの寂しさから、秋葉さんは友人よりフィアットの『X1/9(エックスワンナイン)』を購入します。しかし、なにかにつけてヨーロッパと比べてしまうため、早々に売却。トヨタの4代目『セリカ』、プジョーの『250GTI』を経て、再び初代セリカをネットオークションで落札します。
無改造車のつもりで購入したセリカですが、実は排気量を大きくするといった改造が施されており、程なくしてエンジンが破損。修理に大きな出費を強いられます。それでもキッチリと直し、(当時)最新のパーツで補強を入れたセリカはとても調子が良く、本格的なラリーに出場している友人に請われて競技車として貸し出したところ、幾度も上位入賞を果たしました。
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