取材・文/糸井賢一(いといけんいち)
ただの乗り物なのに、不思議と人の心を魅了する自動車とオートバイ。ここでは自動車やオートバイを溺愛することでオーナーさんの歩んだ、彩りある軌跡をご紹介します。
今回、お話をうかがったのは、東京都調布市でヘアーサロンを営む力石友之さん(53歳)です。高校に通いながら通信制専門学校を卒業し、理容師と美容師の資格を取得。都内のヘアーサロンやロンドンのスクールで修行を重ねた後、26歳の時にお父様のあとを継いでヘアーサロンを開業。現在に至っています。
スーパーカーに憧れ、将来はイオタを所有できると信じた子供時代
東京都歌舞伎町で産声をあげた友之さん。4歳の時、お父様が理髪店をかまえるため、家族全員で調布市に引越しました。
1976年頃に訪れ、日本中の子供たちを夢中にさせたスーパーカーブーム。当時、小学校だった力石さんもまた、スーパーカーに憧れを抱きます。
「クルマに興味を持ったきっかけは、やっぱりスーパーカーブームですね。特にランボルギーニー『イオタ』が好きで、将来は所有できるものだと信じていました」
スーパーカーブームが過ぎても友之さんのクルマへの興味は薄れることはなく、16歳で原動機付き自転車の免許を取得。18歳で普通自動車免許を取得します。
高校卒業後、実家を離れて都内にあるヘアーサロンに就職。この就職は下積み修行の意味合いが強く、時間や気持ち、そして経済的にもクルマを購入する余裕を持つことはできませんでした。
ヘアーサロンに6年間勤めた後、ロンドンのカットスクールへ留学。ビザの都合上、カットスクールへの入学手続きこそ済ませていたものの、それ以外は何も決まっていない状態で渡航。生活費の稼ぎ先はロンドンに到着してから探すといった、若さと思い切りの良さがあればこその海外留学でした。
1年間、ロンドンで技術を学んだ後に帰国。理容師から身を退くお父様より店舗を譲り受け、自身のヘアーサロンを開業。27歳にして、ついに憧れだった自分のクルマを手に入れる環境が整いました。
気むずかしくハイパワーなデルタに疲れ、バルケッタでオープンカーの楽しさを知る
「人生で最初のクルマ選びは、もちろん悩みましたよ。デザインを優先してフィアットの初代『ウーノ』とプジョー『205』、ルノーの『5(サンク)』、そしてBMWの2代目『320i』の4台にまで絞り込こみました。試乗するために中古車ショップを調べ、最初に見つけたのは320iでした。“シルキー6(シックス)”と呼ばれる、BMWの直列6気筒エンジンはどのようなものなのか? 期待して試乗したのですが、これが衝撃的でしたね。クルマの方から『もっとエンジンを回して良いよ』って、言ってくれるんです。その場で購入を決めました」
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