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作家・遠藤周作を終生見守った母の形見のマリア像【文士の逸品No.34】

◎No.34:遠藤周作のマリア像(撮影/高橋昌嗣)

遠藤周作のマリア像(撮影/高橋昌嗣)

文/矢島裕紀彦

いくつもの顔を有していた。シリアスな題材を扱う純文学作家・遠藤周作。「ぐうたら」シリーズなど、肩の凝らないエッセイの名手としての狐狸庵先生。素人劇団「樹座」の座長もつとめた。

悪戯心たっぷりの冗談好き。息子の女友達からの電話を受けると、

「ああ、先週、息子と箱根に泊まりに行かれたお嬢さんですな」

などと、根も葉もない話をこしらえて若いカップルを翻弄した。

ポールという名前の持ち主でもあった。クリスチャンの洗礼名。だが、12歳での受洗は、自らが望んだものではなかった。母親から無理に着せかけられた、いわば「吊るしの洋服」のようなもの。それを、自分の身に合う着物につくり直すのが、結局は生涯のテーマとなった。『沈黙』『深い河』などの代表作も、そんな葛藤の中から生み出された。

長崎県外海町の遠藤周作文学館を訪れると、作家の愛したマリア像があった。高さ21センチ。木製の台を背に、すっと立つ聖母マリア。本体の材は白磁だろうか。天上の空気を身にまとうかのような不思議な透明感を漂わせる。自ら「病気のデパート」と称するほど、病と縁の切れなかった周作。病床に伏す彼の枕元には、慈愛の目でわが子を見守る如き、この母の形見のマリア像が、いつも置かれていたという。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。『サライ.jp』で「日めくり漱石」「漱石と明治人のことば」を連載した。

写真/高橋昌嗣
1967年桑沢デザイン研究所 グラフィックデザイン科卒業後、フリーカメラマンとなる。雑誌のグラビア、書籍の表紙などエディトリアルを中心に従事する。

※この記事は、雑誌『文藝春秋』の1997年7月号から2001年9月号に連載され、2001年9月に単行本化された『文士の逸品』を基に、出版元の文藝春秋の了解・協力を得て再掲載したものです。

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