文・絵/牧野良幸


ポール・マッカートニーの2005年の作品に『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』という長いタイトルのアルバムがあるが、最近そのアナログ・レコードをついに手に入れた。中古ではなく今年(2018年)5月に再発売された新品である。

いくら人気が定着したとはいえ、今日のアナログ・レコードは限定盤で発売になるのが常識だ。発売時に「完全生産限定盤」とか「初回限定盤」とうたわれているように、再プレスはしないのだ。売り切れたらもう手に入らない。今回の13年ぶりの再発売はポール・マッカートニーという大物だから可能になった例外である。

『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』のアナログ・レコードは2005年にCDと一緒にひっそりと発売になった。マニアだけが知っている、マニアしか買わないというのが当時のアナログ・レコードだ。当然CDより価格は高い。僕はCDですました。正直に告白すればポールの最近の作品ならCDでいいか、という気持ちであった。

しかし『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』は70年のファースト『マッカートニー』のようにポールが1人で演奏しているアルバムで、ビートルズ世代には味わい深いアルバムだった。CDは長年にわたって聴き続けた。

こうなるとアナログで聴きたくなる。このアルバムはジャケットもよく(リヴァプール時代のポールが自分の家の庭でギターを弾いている写真)、LPサイズなら見栄えもしそうだ。“素晴らしいLPジャケットを手にしながら、レコードの暖かい音に耳を傾ける”、そんなアナログの妙味を味わいたいと思うのは当然であろう。

しかし時すでに遅しであった。アナログ・レコードはとっくに売り切れ。中古市場で高値がついていた。これでは考えてしまう。ちなみに知り合いのビートルズ好きに訊ねてみると『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』のアナログ・レコードを持っている人は結構いた。「ええ、CDと一緒にレコードも買っておきました」と涼しい顔でおっしゃる。羨ましい。

かくして僕は「アナログ・レコードは迷わず買うべし」という教訓を遅まきながら学んだのである。アナログ・レコードの新譜価格は、レコード会社によって大きくばらつきがあるのが現状だ。3千円台が一般的で、中には4千円台になるものもある。CDより高くつくが買うことにしている。「CDで聴いて良かったら、あとでアナログを買えばいい」とのんびり構えていては手遅れになりかねない。

実を言うとポールのアルバムでもう1枚アナログ・レコードで買わなかったものがある。『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』の次の作品、2007年の『追憶の彼方に~メモリー・オールモスト・フル』だ。これも現在は中古を高値で買うしかない。なんとか再発売してくれないものだろうか。

アナログ・レコードは買っておかないと、僕のように未練がましいことを言い続けることになる。皆さんも過ちなきよう。

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。近著に『オーディオ小僧の食いのこし 総天然色版』(音楽出版社)がある。公式ホームページ http://mackie.jp

オーディオ小僧の食いのこし 総天然色版
(牧野良幸著、定価 1,852円+税、音楽出版社)

 

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