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ソニー・ミュージックの自社生産LPレコードが復活!【オーディオ小僧のアナログ日誌 第17回】


文・絵/牧野良幸

最近話題になったのでご存知の方も多いと思うが、ソニー・ミュージックがおよそ29年ぶりにアナログ・レコードの自社生産を復活させた。

これまで日本ではレコード盤のプレスは1社が細々と続けていた。しかし最近のアナログ・ブームを受け、ソニー・ミュージックはこだわりのレコードを作りたいという要望から、カッティングからプレスまでをグループ内で一貫生産することにしたという。

その第1弾が3月21日に発売された『EIICHI OHTAKI Song Book III 大瀧詠一作品集 Vol.3「夢で逢えたら」 』とビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』である。試聴イベントが新宿アルタのHMVレコードショップでおこなわれたので、オーディオ小僧もさっそく行ってみた。

*  *  *

「私が入社した80年代の終わりは、LPの返品の仕事ばかりしていたものですが、そのLPがこうして復活するなんて、感慨深いです……」

イベントの前に、年配のソニー・ミュージックの方との雑談でこう聞いたのが印象的だった。感慨深いのはこの方だけではないことは、会場につめかけた人たちを見ればわかる。アナログ世代の男性や、アナログに興味のある若者が多いのは当然としても、女性の姿もけっこう見受けられるのが新鮮だ。

そんなことを考えているうちにイベントが始まった。音楽評論家の萩原健太氏(イラスト右)とラジオ・パーソナリティーの土橋一夫氏(同左)のトークである。

まずは大瀧詠一の作品集から。これは名曲「夢で逢えたら」だけを大瀧本人や他人のカヴァーで構成した異色のアルバムだ。

「アナログ・レコードはジャケットもいいんですよ。プラケースに入っているCDと違って、“直”なんですよ。年月とともにかすれていく。自分と一緒に歳をとっていく感じがいい」

萩原氏の言葉にウンウンと頷くオーディオ小僧。しかし感心したのはやはりレコードの音で、シリア・ポールが歌う「夢で逢えたら(’87 MIX)」 が流れると、レコード・ショップという環境にもかかわらず、伸びやかなアナログ・サウンドが会場を満たしたのだった。大瀧詠一プロデュースらしい豊穣なナイアガラ・サウンド。

続けて吉田美奈子が2018年に録音した「夢で逢えたら 2018」を聴く。今度は打って変わってピアノのみの伴奏であるが、最新録音らしく澄んだ空間があらわれた。オーディオ小僧の席は一番後ろだったので、再生システムは見えなかったのだが、それだけに吉田美奈子が観客の向こうで歌っているかのような臨場感である。

*  *  *

続けて『ニューヨーク52番街』に話はうつる。まずは大ヒットした「オネスティ」を聴く。これもレコード・ショップという環境にも関わらず、ヴォーカルやバンド音のまわりの空気感が素晴らしかった。正直、“懐かしのレコード”というより“ハイファイ・オーディオ”を聞いている感覚の方が強い。

「オリジナルが発売された78年はアナログ録音の熟成期ですね」と土橋氏が言えば、「このアルバムはビリー・ジョエルの作品の中で一番バランスがいい」と萩原氏。

続いて選んだのがキャッチーな「ビッグ・ショット」や「マイ・ライフ」ではなく、B面4曲目の「アンティル・ザ・ナイト」というところが萩原さんらしかったが、これも荘厳さをたたえた音であった。「『ニューヨーク52番街』は録り音がいいんですよ」と土橋氏が言うのもうなづける。

「アナログ・レコードは溝だけ見てここは賑やかな曲、ここはバラードだなとわかる」

「アナログにはA面のラスト、B面の1曲目という美味しいところがあるよね」

とこの後もお二人の“アナログあるあるトーク”は続き、ファンには極上のひと時だった。今回のイベントのまとめは最後に土橋氏がおっしゃった、以下の一言に尽きると思った。

「アナログだと音楽を大切に聴きますね」

*  *  *

オーディオ小僧は『ニューヨーク52番街』を自分の家でも聴いたので、最後にその感想も書き添えておこう。

レコード盤は180グラム重量盤ではないものの、厚みがあるのは確実だ。それは盤を支える指の腹の感触でわかるオーディオ小僧である。

音は自宅のシステムで聴いても、イベント会場の時と同じくクリアな音空間だった。この連載にも以前書いたように、現在生産されるアナログ・レコードは昔と違ってチリ、ホコリが少なく、ノイズに悩まされることがほとんどない。昔と同じようで昔と違うのが今のアナログ・レコードなのである。

音質は70年代後半のアメリカン・ロックらしい、スピード感があって立ち上がりの良い音である。それでも柔らかな耳障りを残すところがアナログならではと思う。シンバルの音の減衰するところなど、繊細さも持ち合わせている。やっぱりこういう細かいニュアンスは自宅のシステムで聴くとよくわかる。

アナログ・ブームとは関係なく、ずっとアナログ・レコードを聴いてきたオーディオ小僧であるが、この『ニューヨーク52番街』を聴くのは楽しい。そう思わせる仕上がりだ。やはりソニーミュージックならではのこだわりが注ぎ込まれているのだろう。

ということで、次回はこのレコードのカッティングにまつわるお話をソニー・ミュージックの方に伺おうと思う。どうぞお楽しみに。

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。最近『僕の音盤青春記 花の東京編 1981-1991』(音楽出版社)を上梓した 。公式ホームページ http://mackie.jp

『僕の音盤青春記 花の東京編 1981-1991』
(牧野良幸著、定価 2,000円+税、音楽出版社)
https://www.cdjournal.com/Company/products/mook.php?mno=20171028

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