文・絵/牧野良幸
最近、ソニー・ミュージックエンタテイメントがアナログ・レコードのプレス機を導入したニュースが社会を賑わした。日本のアナログ・レコードのプレス工場は、アナログの衰退とともに減り始め、長い間、東洋化成のみでプレスしてきたから、これは画期的なことだ。
このエッセイの第1回に、多少皮肉をこめてアナログ・ブームを伝えるマスコミのことを書いたけれど、やはりこういう記事が出ると嬉しいものである(ホント)。
ただいつも思うのは「アナログ・レコードのブーム」と同じくらい、「アナログ・プレーヤーのブーム」も来てほしい、ということである。
まさかプレーヤーのない「アナログ・ブーム」もあるまい。LPジャケットを飾ったり、ファッションとしてレコードを聴くのも、それはそれで「アナログ・ブーム」かもしれない。しかしオーディオ小僧としてはガッツリとしたアナログ・プレーヤーで聴く人が増えてこその「アナログ・ブーム」と思うわけである。
こう書くのもアナログ・レコードはプレーヤーによって音が随分と変わるからだ。
それまでアナログ・プレーヤーは正確な回転こそ必要だけれども、それは基本中の基本であって、カートリッジほど音質への影響はないと思っていた。だいたいアナログ・プレーヤーなんて何台も買い替えるものではない。音を追求するならカートリッジにこだわるべきだと。
ところが10年くらい前であろうか、オーディオ師匠のひとりから《ガラード301》というヴィンテージのアナログ・プレーヤーを譲ってもらった。カートリッジは以前のものをそのまま流用した。
このガラード301で聴くとレコードの音がかなり変わったのである。音に厚みとコクが出た。音質面で劣るとされていた国内盤でさえヴィンテージ盤のような音になった。
これほどの音の違いを生むのはカートリッジの役割だと思っていただけに、プレーヤーの交換で変わったことにビックリしたわけである(厳密にはトーン・アームとシェルも違うが影響は少なめだろう)。
ガラード301というのは一例にすぎない。今日では沢山のアナログ・プレーヤーが発売されている。これからアナログを始めようという方は、じっくりとプレーヤーを選んでほしい。トーン・アームとシェルにもこだわれば完璧だ。
こんな記事がマスコミを賑わせば、まさしく「アナログ・ブーム」であろう。
文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp
『オーディオ小僧のいい音おかわり』
(牧野良幸著、本体1,852円 + 税、音楽出版社)
https://www.cdjournal.com/Company/products/mook.php?mno=20160929