文/鈴木拓也
日本人の晩婚化が止まらない。最近の人口動態統計を見ると、平均初婚年齢は男女ともに約30歳。世界で見てもかなり遅いほうだ。そして、50歳まで一度も結婚をしたことがない生涯未婚率も、男性は23%、女性は14%と上昇中。1980年代までは数%に過ぎなかったのだから、隔世の感がある。
ただ、少子化問題は別にして、晩婚はいちがいに悪いことではないと力説するのは、フリーライターの大宮冬洋さん。大宮さんも、32歳に結婚するも1年で破局、その後35歳で再婚した晩婚派(?)だ。
大宮さんは、出産・子育てを考えれば20代での結婚が正解と前置きしつつ、「人は何歳であっても結婚できる」と晩婚化の趨勢に前向きだ。これはなにも、一個人の体験から出た言葉ではなく、仕事を兼ねのべ1,600人以上の30~40代の独身男女と飲み交わし、晩婚カップル80人以上を取材した経験にもとづく、地に足のついた見解だ。
大宮さんが、著書の『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』(講談社)にて、晩婚の素晴らしい点として挙げているのは、以下の3点。いずれも、未熟さが否めない若い夫婦には、なかなか実現が難しいものだろう。
・支え合うけれど依存はしない
・現実を受け入れて変化を楽しむ
・お互いを尊重して機嫌よく生活できる
また総括的に以下のようにも語られている。
晩婚さんの穏やかな新婚生活は、思い描いていた「理想の結婚」とは違っても大丈夫だ。現実を受け入れながら心地よい環境を作っていける。見知らぬ土地に住む場合も大人の適応能力を発揮できたりする。
お互いに責任を感じるからこそ、仕事にも迷いなく取り組める。それぞれが一人暮らしのときよりも、はるかに豊かで安心な生活を送れる。 (本書64pより引用)
とは言うものの、「子どもは作らない」のか「不妊治療を受けてでも作る」のか、目の前に控えた老親の介護をどうするかなど、ヘビーな問題もあるのが「晩婚さん」。全てがバラ色に包まれた話ではないことにも留意は必要だ。
そして、それ以前の問題として、「30代半ばを過ぎてからの婚活ははっきり言って楽ではない」と大宮さんは釘を刺す。楽ではないながらも、晩婚に成功する人は成功するのだが、そういう人たちには「身ぎれいで爽やかな印象を受ける」、「笑顔が多くて感じがいい」、「主体的な努力を惜しまない」の共通点があるという。
なかでも最も重要なのが3つめの「主体的な努力を惜しまない」で、要するに積極的に婚活に励めるかどうかが、成否の分かれ目になるようだ。実際の話、大宮さんが取材した80人の「晩婚さん」のうち3割は、結婚相談所などを活用して相手を見つけている。
大宮さんは、晩婚を「35歳以上での結婚」と定義し、本書ではおおむねアラフォー世代のカップルの話を軸に展開しているが、それよりも一回り上の結婚についても1章を割いて論じている。
そこでは、「男女ともに相手に『若さ』を強く求める日本社会において、アラフィフ以降のいわゆる『シニア婚』のイメージは決して良くない」としつつも、63歳の文筆家と69歳の元大学教授が結婚した「阿川佐和子ショック」を引き合いにし、「いま、『シニア婚』への古臭いイメージが消えていくのを感じている」と所感を述べている。
阿川さんの結婚は「晩婚」「シニア婚」の暗いイメージを葬り、「人はいつでも愛し合って結婚ができる」という希望をもたらした。今後、日本社会でも大人同士の美しい恋愛と結婚が増えていく気がする。(本書199pより引用)
結婚相談所でも、今後のシニア婚の需要増加を見込んで、例えば「男性50歳以上、女性45歳以上」を条件に掲げるサービスが出てきている。結婚願望があるのなら、「もういい年だから」と憶する必要のない時代に突入していると言えそうだ。
【今日の人生を考えさせられる1冊】
『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000211375
(大宮冬洋著、本体840円+税、講談社)
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。