■より深いジャズのルーツへ

カサンドラ・ウィルソンは1955年に「アメリカン・ミュージックの故郷」ともいうべきアメリカ南部、ミシシッピ州の州都ジャクソンに生まれました。これは彼女の音楽観を考えるうえで重要なポイントです。

ジャズ誕生の地ニューオルリンズは隣のルイジアナ州ですが、ジャクソンから250キロほども南下すればもうニューオルリンズ。広大なアメリカからすれば、この距離はほんの隣町の感覚でしょう。現にミシシッピ州もまた、かつてはスペイン、フランスの統治下にありました。

つまりブルース、カントリー・ミュージック、そしてラテンといった多様性に満ちた音楽的環境は同じなのですね。ちなみに、「カントリー・ミュージックの父」と呼ばれた白人ギタリスト、ジミー・ロジャーズは、ミシシッピの生まれとされています。

ミシシッピは代表的な黒人音楽、ブルースにとってとりわけ重要な地域でありました。「ブルース」はこの地で「発見」されたのです。1903年、「ブルースの父」と呼ばれたセントルイス・ブルースの作曲者、W・C・ハンディがミシシッピを旅行中に「今まで聴いたこともない音楽」が聴こえてきたのでこれを紹介したのが、「ブルース」が広く知られるようになったきっかけだったのです。

そしてカサンドラの父は、初期のブルースマンとして知られたサニー・ボーイ・ウィリアムソンの録音に参加したこともあるベーシストだったのです。ジャズがブルースの影響を受けていることはよく知られていますが、カサンドラはジャズのルーツ・ミュージック、ブルースともきわめて近しい環境だったのです。

ところで、「ブルース」というと純然たる黒人音楽だと従来は考えられていましたが、近年の研究で、初期のブルースに北米大陸に移住してきた白人たちのフォーク・ソングの影響が少なからずみられることがわかってきたのです。

さて、ここでジョニ・ミッチェルです。彼女はロック・シンガーとして有名ですが、フォーク・シンガーとしてデビューしているのです。そうしてみると、カサンドラが典型的黒人ジャズ・ヴォーカリストであるサラと、白人ロック歌手のジョニの影響をともに受けていることが必ずしも「矛盾」というわけではなく、むしろカサンドラは多くのファンが忘れていたジャズの深いルーツに敏感だったという見方も、できるのですね。まさに「ジャズの伝統に連なる自由闊達さ」といえるでしょう。

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