四季の自然や、そこに生きる人や生き物を優美に描いた日本の伝統的な絵画様式を「やまと絵」といいます。大和絵とも書き、古くは倭絵と記されて、中国伝来の絵画および日本で中国の事物を描いた「唐絵(からえ)」に対する言葉として用いられました。
唐絵が漢詩文の教養に基づいていたのに対し、やまと絵は和歌や物語と密接に関わりながら、平安時代の貴族文化のなかで邸宅の障子や屏風に描かれ、また物語の挿し絵や絵巻の形で発展しました。
室町時代に土佐派が興隆して、やまと絵の制作を主導する宮廷の絵所預(えどころあずかり)を世襲するようになると、土佐派はやまと絵の一大流派となりました。しかし、桃山時代になると狩野派の躍進によって土佐派は劣勢となり、中央画壇から退いていきました。
やがて江戸時代になって、土佐派を中央画壇(絵所預)に復帰させたのが、土佐光起(とさみつおき、1617-91)です。光起は、狩野派など漢画系流派の水墨表現や中国絵画の写実表現も巧みに取り入れて、やまと絵の画題を一気に拡大して、幕末まで続く流派体制を整えました。
そんな土佐派中興の名手、土佐光起の画業を中心に、近世やまと絵の魅力を紹介する展覧会が「土佐光起 生誕400年 近世やまと絵の開花 ―和のエレガンス―」が、大阪市立美術館で開かれています(~2017年10月1日まで)
本展は、土佐光起の生誕400年を記念して、その清新な画風に改めて注目する特別陳列です。光起とその子・光成らを中心とする土佐派作品53点により、雅やかな「和」の情趣にみちた近世やまと絵の世界を紹介します。
本展の見どころを、大阪市立美術館の主任学芸員、知念理さんにうかがいました。
「本展覧会は《I 新生やまと絵ビッグバン-絵所預土佐光起の画業》《II 家業の礎-模写・下絵・写生》《III 近世土佐派ブランドの形成-歌を彩る》《IV 王朝のみやびレジェンド-物語絵のゆくえ》の4章で構成され、全53点を展示しています。
主要な作品をご紹介しましょう。
まず《春秋花鳥図屏風》は、満開の桜に柳が芽吹く春の景と、松に紅葉した楓の大樹を重ねた秋の景が、金地にあでやかな色彩で描かれています。狩野派などと共通する大画面形式を骨格としながら、大型の禽獣を描かず、やまと絵らしい繊細な造形感覚を反映させた金碧花鳥図で、光起の代表作のひとつとして知られています。
重要文化財《大寺縁起》の大寺(おおてら)とは、堺の開口神社の神宮寺であった念仏寺のことです。住吉神と同体という神をまつる神社の由来や、行基による念仏寺の創建などを語る縁起絵巻。祭礼や舞楽など華やかな王朝風俗が丹念に描かれています。詞書は近衛基煕(このえもとひろ)ら一流の公家25人の寄合書によるものです。
《源氏物語絵巻》は、十段からなる源氏物語絵巻。桃山から江戸初期に完成された土佐派の源氏絵様式を受け継ぎながら、光起独自の図も含まれ、装飾性を抑えたクールな細密描写が見どころです。詞書は光起より世代の古い皇族、公家らによるもので、料紙には桃山風のおおらかな金銀泥下絵が描かれています」
平安貴族の暮らしや源氏物語の雅な世界を格調高く描いた土佐光起。その力量に圧倒されます。ぜひ会場でご堪能ください。
【展覧会情報】
『特別陳列「土佐光起 生誕400年 近世やまと絵の開花 ―和のエレガンス―」』
■会期:2017年9月2日(土)~10月1日(日)
■会場:大阪市立美術館 南館2階
■住所:大阪市天王寺区茶臼山町1-82
■電話番号:06・4301・7285(大阪市総合コールセンター)
■ウェブサイト:http://www.osaka-art-museum.jp/
■開館時間:9時30分から17時まで(入館は16時30分まで)
■休館日:月曜日(ただし9月18日は開館)、9月19日(火)
取材・文/池田充枝