文・絵/牧野良幸

今回はアナログ・レコードの話ではなく、防音室の話である。しかしこれもアナログ・レコードを聴くための重要な要素であるから、書いてみようと思う。

オーディオ小僧は今から16年前に自宅マンションに防音室を作った。といってもそんなに広くない。既存の部屋の中に新たに防音室を作るビルトインタイプだから、壁は16センチくらい狭くなる。もともと8畳ほどの部屋が5畳ほどになってしまった。天井が下がり床が上がるので圧迫感もある(手を上げれば天井に届く)。

普通の人なら「どうしてそんなことを?」と首をかしげるだろう。しかしオーディオ小僧にとって音量を気にしないでレコードを聴くのは長年の夢だったのだ。

防音室はマンションの壁との間に空間を持たせ、直接音を伝えない構造になっている。ドアも二重だ。厚さ7センチの重いドアが付く。枠にはゴムのパッキンがつけられ、ドアハンドルを回すとギューと圧縮して閉める仕組みだ。窓のサッシも二重。もちろんエアコンなどの設備もついている。

防音室ではヴォリュームを望むだけ上げて聴くことができる。それまでヘッドフォンで音楽を楽しむしかなかったオーディオ小僧には極楽である。アナログ・レコードを本格的に聴きだしたのも防音室を作ってからだ。

しかしその防音室も長年のうちに音が漏れるようになってきた。中で音楽に酔っているオーディオ小僧にはそんなこと分からない。クレームを言い出したのは家人であった。

「最近、音が漏れるよ」と家人は言った。そういう家人こそ、居間で見ているテレビのほうがよっぽど大きい音と思うのであるが、もちろん口答えはしない。まあ、普段何も聞えないところに少しでも音が聞えれば気になるのだろう。

オーディオ小僧も防音室から出て自分で確認したところ、確かにラジオのような小さな音が聞える。さすがにこれはメンテナンスをお願いしなくてはいけないと思った。

防音室を作ってもらった施工業者に電話をすると、すぐにメンテナンスに来てくれた。といってもメンテナンスはドアのパッキンの交換がほとんどだと言う。

確かに何年も前からパッキンが硬くなってしまい、ドアを閉めた時の手応えがなくなっていた。本来なら10年くらいで交換したほうがよいのだそうだ。オーディオ小僧は16年も交換なしで使ってきたから、そりゃあ音も漏れるわけである。費用は出張費、工事費込みで数万円なのだから、もっと早く交換すればよかったと思う。

メンテナンスのあとは以前のように音が外に漏れなくなった。これで心おきなく音量を上げられる。家人の小言も聞こえなくなった。これも精神衛生上、いいことだ。

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

『オーディオ小僧のいい音おかわり』
(牧野良幸著、本体1,852円 + 税、音楽出版社)
https://www.cdjournal.com/Company/products/mook.php?mno=20160929

 

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