文・写真/山本益博
どじょうなべは、額に汗をかきかき、手拭でその汗を拭きながら食べる鍋料理です。つまり、鍋物なのに夏の風物詩。歳時記でも「どじょうなべ」は夏の季語になっています。
台東区、墨田区、江東区の下町には「どじょう」専門店が何軒もありますが、私の一押しは江戸創業の老舗「駒形どぜう」。大広間の座敷に座り、注文したどじょうなべに葱を山盛りにし、ぬる燗を酌み交わしながら、ふっくらと煮上がったどじょうをいただく風情は、江戸時代にタイムスリップした感覚です。
そのどじょうなべ、どじょうの骨を抜いた「ぬき」を好む方がいますが、どじょうの持ち味は骨の苦みにありますから、そのままの姿の「まる」が正統派ですね。
調味料は唐辛子と山椒が用意されてありますが、こちらは好みの問題。私はいつもどじょうの苦みと山椒の相性を楽しんでいます。
そうして、締めはどじょう汁に御飯。なべでいただいたどじょうとはまたひと味違った味わいで、濃い目のみそが御飯の味を引き立ててくれます。
この春、「駒形どぜう」を舞台にした『どぜう屋助七』(河治和香著、実業之日本社刊)が文庫本で出版されました。どじょうを食べる前にお読みになると、いっそう興趣が湧いてきます。
【今日のお店】
『駒形どぜう』(浅草本店)
住所:東京都台東区駒形1-7-12
営業時間:11時~21時(ラストオーダー)
年中無休(大晦日と元日は休業)
電話:03-3842-4001
https://www.dozeu.com/
文/山本益博
料理評論家・落語評論家。1948年、東京生まれ。大学の卒論「桂文楽の世界」がそのまま出版され、評論家としての仕事をスタート。TV「花王名人劇場」(関西テレビ系列)のプロデューサーを務めた後、料理中心の評論活動に入る。