文・絵/牧野良幸
今回より始まった【オーディオ小僧のアナログ日誌】。オーディオ小僧とは、好きなくせにマニアックにまでなれない、ユルいオーディオ好きのことである。そんなオーディオ小僧のアナログな日々を綴っていきたい。
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“レコードが復活”。ときおりマスコミでこういう見出しを目にする。そのたびに「お、仲間が増えるな」と喜ぶ。
しかしオーディオ小僧のまわりはこれまでと変わらない。高校時代に音楽談義をした同級生と酒を飲んでも「オレ、レコードをまた聴いてるよ」なんて話は出ない。何もなかったかのように月日は過ぎるのである。
するとふたたび“レコードが復活”といった記事を見かける。しかし、またもオーディオ小僧のまわりでアナログプレーヤーを買った人はいない。レコードを聴いているのはあいかわらず昔から聴いている人だけだ。なんだか10年くらい、その繰り返し。
「狼が来たぞ」という童話のように、だんだん見出しを読む目が冷ややかになってきた。レコードはいったい何回復活しているだろうか。ひょっとして“今レコードがブーム”と書くことが、ブームだったりして。
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しかしそんなオーディオ小僧も最近は「本当に狼がくるかも」と考えるようになった。
別に旧友からの年賀状に「小生ふたたびレコードを聴き始めました」なんて書いてあったからではない(そんな事は一回もない)。先日手に取った『サライ』がアナログレコード特集を組んでいた、からでもない(それはそれでこのサイトに本連載を始めるきっかけにはなったが)。それよりも単純にレコードの発売数が増えたと思うからである。
名の知れたアーティストのアルバムが、CDと同時にLPレコードも発売されるのが当たり前になったのだ。それも以前はポップスが主だったのに、近年はクラシックでさえ、レコードの同時発売が増えてきた。
これだけ供給があるのは、当然ながら需要があるからだろう。日本で稼働している唯一のレコードプレス工場も活況と聞く。生産が増えたのなら、買う人が増えたということで間違いない。
ひょっとしてオーディオ小僧たちが昔以上に、がむしゃらに買っているから需要があるのか。いや、やはり聴く人じたいが増えてきたと考えたい。
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いずれにしても今日の“アナログ・ブーム”は大変結構だ。狼よ来いである。
量的にはかつてのアナログ最盛期には遠く及ばないけれど、今の時代には今の時代のレコードの楽しみ方がある。昔より楽しい場合も少なくない。そんなアナログレコードにまつわるあれこれについて、これからここに書き記していこう。
さて今日もレコードをターンテーブルに乗せますか。
文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp
『オーディオ小僧のいい音おかわり』
(牧野良幸著、本体1,852円 + 税、音楽出版社)
https://www.cdjournal.com/Company/products/mook.php?mno=20160929