取材・文/池田充枝
2007年、作家でドイツ文学者の中野京子氏が出版した『怖い絵』(朝日出版社)は、「恐怖」に焦点をあて、その絵の時代背景や隠された物語という知識をもとに読み解く美術書。当時ベストセラーを記録し、シリーズ化されて、大きな反響を呼びました。
作者の中野氏は、“恐怖”ということについて、
怖さは想像の友であり、想像によって恐怖は生まれ、恐怖によって想像は羽ばたく。一見何も怖いものは描かれていないのに、その時代の、文化の、関わった人々の、さまざまな絡み合いを知るうちに、恐怖はじわじわ画面からにじみ出てきて、絵の様相を一変させる
と述べています。
そんな同書の刊行10周年を記念する展覧会「怖い絵」展が、兵庫県立美術館に引き続き、東京・上野の森美術館で開かれています(~2017年12月17日まで)。
本展は、中野京子氏を特別監修に迎え、書籍シリーズで紹介された作品を筆頭に、新たに選ばれた作品も加えた油彩画や版画、約80点を紹介します。日本初公開となる、ロンドン・ナショナル・ギャラリーを代表する名画、ポール・ドラローシュの《レディ・ジェーン・グレイの処刑》ほか、ターナー、モロー、セザンヌなど、ヨーロッパ近代絵画の巨匠の“怖い”作品が並びます。
本展の見どころを、兵庫県立美術館学芸員の岡本弘毅さんにうかがいました。
「中野京子氏の『怖い絵』は、数々の名画の魅力を「恐怖」をテーマに解かりやすく紐解き、美術書として異例のベストセラーとなりました。本展は中野氏を特別監修者に迎え、西洋近代の絵画・版画から“怖い”作品を選び出し、神話・怪物・異界・現実・風景・歴史といったキーワードに沿って紹介します。
なかでも最大の注目作は、19世紀フランスの画家ドラローシュが手掛けたロンドン・ナショナル・ギャラリーの至宝《レディ・ジェーン・グレイの処刑》です。これは、イングランド史上初めての女王となり、15歳で戴冠してわずか9日後に廃位され、7か月後に処刑された少女の悲劇を大画面に描き出した名作で、今回が日本初公開となります。
そのほかにも、初期ロマン主義の画家フューズリの名作《夢魔》の知る人ぞ知るミニチュア版や、ヴィクトリア朝イギリスの画家ウォーターハウス代表作《オデュッセウスに杯を差し出すキルケー》、近代絵画の巨人セザンヌが激烈なテーマに挑んだ《殺人》、ロマン主義風景画の巨匠ターナーの《ドルバダーン城》など、一見しただけで怖さがダイレクトに伝わる作品から、ストーリーや歴史的背景を詳しく知ることによってじわじわと怖さが広がる作品まで、様々なタイプの“怖い絵”をご用意しています。
私たちが普段美術に求める「美」に勝るとも劣らない「恐怖」の魅力をぜひ会場でご覧ください」
怖いものみたさは、人間の本性。恐怖から導かれる真理をのぞきに出かけませんか。
展覧会 | 「怖い絵」展 |
会期 | |
会場 | 兵庫県立美術館 |
問い合わせ先 | 電話:078・262・0901 |
Webサイト | http://www.kowaie.com |
開館時間 | 10時から18時まで、金・土曜日は20時まで(入場は閉館30分前まで) |
休館日 | 月曜日(ただし9月18日は開館) |
展覧会 | 「怖い絵」展 |
会期 | 2017年10月7日(土)~12月17日(日) |
会場 | 上野の森美術館 |
問い合わせ先 | 03-5777-8600(ハローダイヤル) |
Webサイト | http://www.kowaie.com |
開館時間 | 午前10時~午後5時 ※入場は閉館の30分前まで |
休館日 | 会期中無休 |
取材・文/池田充枝