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「自分で自分を見捨てない限り、それは駄目ではない」【漱石と明治人のことば197】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「失望したらいかんぞ。人間はもう駄目だと思ったときが、ほんとうに駄目なんだぞ。人が駄目だと言っても、自分で自分を見捨てない限り、それは駄目ではないのだ」
--兵庫県立豊岡中学校校長・近藤先生

作家にして僧侶であり、のちには参議院議員もつとめた今東光は、明治31年(1898)神奈川県横浜市で生まれた。いわゆる問題児だったのだろう。関西学院中学部を諭旨退学になり、兵庫県立豊岡中学校に転校したが、まもなく恋愛問題を起こし、ここでも退学処分となった。

ただ、そのときの校長の近藤先生ができた人だった。退学となり豊岡を離れる今東光を駅まで見送って掲出のようなことばを言い聞かせ、さらにこうつづけたという。

「失望したり、絶望したりする人間は弱者だ。君に贈ることばはひとつ、『失望するなかれ』だ」

このことばは、東光少年の胸の奥に深く突き刺さった。

後年、この校長先生の何回忌かの集まりが神戸であった。

その人柄を慕う者は多く、列席者の中には、同じ豊岡中学の出身である丸善石油社長の和田完二、関西電力社長の太田垣士郎といった経済人もいた。

立派な校長先生の法要だからきちんとつとめねばという意識があったのかどうか、呼ばれた僧侶が長々とお経をあげていた。すると、それを今東光が途中で、「もうやめろ!」と遮った。

「みんな忙しい人間が集まって、なつかしい者同士で久しぶりに昔話をしようと楽しみに来ているのに、長いお経なんかなんだ」

このときまだ、今東光は、天台宗の最高位の権大僧正となってはいなかったようだが、「現代の荒法師」にそんな一喝をされた当の僧侶は、さぞ面食らったことだろう。

いずれにしろ、今東光は、型破りの毒舌和尚だった。こんな逸話もある。

大阪・八尾の天台院という貧乏寺の和尚をしていて、葬儀に出向いた今東光が、「東光和尚のお経は短い」と言われたことがあった。そのとき、今東光は怒ってこう返答した。

「うるせえ、俺はおまえんとこのおとっつぁんが死んだときから、
ずうっとお経やってんだ。いま、その最後のとこをやってるんだ」

お経についても、形式的な長さばかりをありがたがるような世間の風潮を叱ったことばでもあったろうか。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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