文/一乗谷かおり
猫を描いた江戸時代の浮世絵を見ていると、何故かアワビの貝殻が頻繁に登場します。
猫がアワビのお皿に顔を寄せていたり、ネズミが寝ている猫の傍らでアワビのお皿にいたずらをしたり、アワビ模様の着物を着た擬人化猫がいたり……“猫に鰹節”とはいいますが、“猫にアワビ皿”といってもいいくらい、たくさんの作品が残されています。
たとえば猫好き絵師として知られる歌川国芳画の浮世絵『源氏雲浮世画合』「柏木」(東京都立図書館蔵)にも、アワビの貝殻の皿でごはんを食べる猫がさりげなく登場します。
同じ国芳の、東海道五十三次の宿駅を猫で表した『其のまま地口 猫飼好五十三疋』にも、アワビやホタテの貝殻を皿として使う猫たちが描かれています。
実は江戸時代、アワビの貝殻は猫のごはん皿として定番だったのです。
他にも、ホタテや牡蠣の貝殻も使われたようですが、ホタテでは水分の多いものはあまり入れられず、牡蠣は不安定。アワビであれば、殻に4、5個ほどある小さな穴をふさいでしまえば、猫によく与えていた汁かけ飯も入れられる良い皿になったのです。
明治時代以降も、アワビ皿は猫用に使われていました。夏目漱石の『吾輩は猫である』の名無しの猫さんも、やはりアワビ皿を使っていたことが小説中の描写からわかります。
■貝殻はいいけど身を食べさせちゃダメ
では、猫がアワビを食べていたかというと、そんなことは決してありませんでした。アワビは人間が美味しく頂いた後で、殻だけを猫のお皿として利用していたのです。
猫にアワビを食べさせていなかったといえるのは、猫にアワビや烏貝などを食べさせてはいけない、という通説が昔からあるからです。
江戸時代の正徳2年(1712)に編まれた百科事典『和漢三才図会』には、「猫に烏貝の肝を食べさせると耳が落ちるので、与えてはいけない」といったことが記されています。これが、貝類を猫に食べさせてはいけないことを記した最初の記録だといわれています。
江戸時代後期に刊行された猫を擬人化した『朧月猫のさうし』(山東京山作、歌川国芳画、1842~1849)には、医者役の猫が患者の猫に「猫に烏貝を食べさせてはいけない、食べるとできものができて、耳が落ちる」と説明しおり、こうした娯楽草紙も手伝って、「猫が烏貝を食べると耳が落ちる」といった通説が広まっていきました。
やがて、烏貝の肝のみならず、アワビなど他の貝も猫に食べさせてはいけない、といわれるようになったと考えられています。
実は、人間がアワビなどの中腸腺(肝膵臓)を食べると、季節によっては皮膚炎などの中毒症状が生じることがあるとの学術報告があります。アワビの餌である海藻類の光合成に必要な葉緑素のクロロフィルの分解成分であるフェオホルバイドが原因といわれており、とくに日光に当たりやすい体の部分が痒くなったり炎症を起こしたりします。
同じことが猫にも起こりえます。全身を毛でおおわれた猫の場合、毛の比較的薄い耳が日光に当たるとかぶれてきて、痒くてかきむしっているうちにただれて、やがてボロボロになってしまう、と考えられるのです。
「耳が落ちる」の通説をみると、江戸時代からそういうことが経験的に知られていたのかもしれません。
■猫にイカを食べさせると腰を抜かす
アワビなどの貝類以外にも、猫に食べさせてはいけないとされていたものはあります。
例えば「猫にイカを食べさせると腰を抜かす」とはよく聞く通説ですが、これは厳密には生のイカの話です。
生のイカやタコなどには、猫にとってとても大切な栄養素であるビタミンB1を壊してしまう酵素が含まれており、食べると猫はビタミンB1不足に陥って、食欲不振になったり、毛が抜けたり、口内炎になったりするのです。そして最終的には栄養不足で足腰が立たなくなってしまうため「腰が抜ける」といわれたようです。
アワビやイカといった、昔から「猫に食べさせてはいけない」とされているものは、やはり何かしら根拠があるようです。猫を大事にしてきた先人たちは、ちゃんと知っていたのですね。
文/一乗谷かおり
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