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「学問をして人間が上等にならないなら、初めから無学でいる方がいい」(夏目漱石)【漱石と明治人のことば178】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「学問をして人間が上等にならぬくらいなら、初めから無学でいる方がよし」
--夏目漱石

上に掲げたのは、夏目漱石が愛媛県尋常中学校刊『保恵会雑誌』に掲載した『愚見数則』の中に記したことばである。当時、漱石は28歳。ひとりの英語教師として松山に赴任している。この文章には、若く真っ直ぐな漱石の教育観があらわれている。

最近、大学教育などでは、社会に出てそのまますぐに使えるような実学を重んじる傾向がある。専門化や細分化も、どんどんと進んでいる。行政や役所が予算を通して介入して、それを推し進めようとする。もちろん、実学重視は必ずしも悪いことではないが、一方で文学部不要論が出てきたりすると、それはちょっと違うのではないかと思う。

学問によって、ほんとうに磨き上げるべきは、知の力であり人間性そのもののはず。それが出来上がらないようなら、学問などする意味がない。掲出のことばで、漱石はそう指摘するのである。

このことばの前に、漱石はこうも述べている。

「理想を高くせよ。敢えて野心を大ならしめよとはいわず。理想なきものの言語動作を見よ、醜悪の極みなり。理想低き者の挙止容儀を観よ、美なるところなし。理想は見識より出ず、見識は学問より生ず」

翻って最近の国内外の政治に目を移すと、リーダー的立場にいる人たちが、平気で事実をねじ曲げる強弁を繰り返している。自分に都合の悪いニュースや情報は「フェイク」や「怪文書」だと切り捨てる。そうして、恥じるそぶりもなく、むしろ得意気に胸をそらしている。けっして上等とはいえない。

強弁の仕方は学んでも、正直や公正という、人間性の基礎となる肝心な部分は磨き忘れたらしい。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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