『サライ』本誌で毎号CD評を連載している林田直樹さんの著書『ルネ・マルタン プロデュースの極意』が刊行された(アルテスパブリッシング刊)。毎年100万人の観客を動員するクラシック音楽の祭典「ラ・フォル・ジュルネ」の仕掛け人であるルネ・マルタン氏の言葉をとおして、その人物像と成功哲学を描き出す、珠玉の箴言集である。
「ルネ・マルタンとは誰か? フランスからやってきた、21世紀のクラシック音楽界に最大のイノベーションをもたらした男であり、夢と希望を語り続ける真のプロデューサーである。それまでにいったい誰が、クラシックの音楽祭に数十万人もの人々が集まることを想像できただろう?」(本書より)
ルネ・マルタン氏が生み出したクラシック音楽フェスティバル「ラ・フォル・ジュルネ」は、いまや国境をこえて世界各地に広がり、日本でも「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」として毎年開催され、すっかり定着した。
その特徴は、大きなコンサート会場に大衆を集めるのではなく、数百という大小のクラシック演奏会が期間内に同時多発的に開催されること、そして、一流演奏家によるすばらしい演奏が、驚くほどの低価格で聴けることだ。
その魅力にひかれ、ふだんはクラシックを聴かないような老若男女が、家族や友人と連れ立って、数十万人という規模でクラシック音楽を楽しみに集まってくる。これはクラシック音楽としては実に希有な“事件”である。
昨年の夏、南仏プロヴァンスにマルタン氏を訪ねた林田さんは、10時間以上にわたって語り合った。話題は芸術、人生、そしてビジネスまで広範囲にわたった。その貴重なインタビューを含め、十年以上にわたって取材を重ねてきた記録から抽出されたマルタン氏のメッセージの数々は、読む者に多くの気づきを与えてくれるはずだ。
「クラシック音楽はあらゆる人に開かれ、あらゆる人が愛する権利を持つものです」
「好奇心こそ、企画においてもっとも優先されるものです」
「私たちが売っているのは、夢でありエモーションなのです」
「新しい耳を持った聴衆と出会うことが、演奏家には何よりも必要です」
「東京は、文化面で切ることのできるカードをたくさん持っています」
「人間を豊かにしていくのは文化以外にありません」
それぞれの言葉に付された林田さんの文章が、ルネ・マルタン氏の人となりや思想の解釈を助けてくれる。
稀代の音楽プロデューサーとしてクラシック音楽界に革命をもたらした男、ルネ・マルタン氏の言葉には、音楽への愛と情熱に満ちあふれているとともに、人をポジティブな方向へと引き寄せる力を感じさせる。
そして今年もまたゴールデンウィークには、東京で「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017」が開催される。今年のテーマは「ラ・ダンス 舞曲の祭典」。クラシック音楽ファンならずとも、今から開催が待ち遠しいばかりだ。
『ルネ・マルタン プロデュースの極意 ビジネス・芸術・人生を豊かにする50の哲学』
著:林田直樹、アルテスパブリッシング刊
四六判並製、144ページ
定価:本体1400円+税
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文/編集部