取材・文/池田充枝
植物や動物などの自然物を観察し、その種類や性質・産地などを分類して記録する学問が「博物学」です。日本では、古代中国で誕生した薬学である「本草学(ほんぞうがく)」として古くから研究され、江戸時代には中国や西洋の新たな手法による研究の影響を受けながら大きく発展しました。
「図譜(ずふ)」はその研究成果の一つで、今でいう図鑑にあたり、対象が正確に、分かりやすく記録されています。ただ、写真のように対象をあるがままに写し取るというわけではなく、科学の眼で取捨選択された情報によって構成されているのが特徴です。
そんな本草学者たちの知的好奇心に満ちた図譜の美しさに焦点をあてた展覧会『江戸の生きもの図鑑-みつめる科学の眼-』が、徳川美術館で開かれています(~2017年7月9日まで)。
本展では、愛知県下に所在する様々な「図譜」の優品が展示されています。また、江戸時代における本草学の中心地の一つだった尾張地域について紹介するとともに、尾張徳川家に伝来した本草学に関連する品々も拝見できます。
本展の見どころを、徳川美術館の学芸部学芸員、安藤香織さんにうかがいました。
「本展でまず見ていただきたいのは、高木春山(しゅんざん)筆『本草図説』(江戸時代、19世紀、西尾市岩瀬文庫蔵)です。魚類・植物・動物・鉱物など、幅広く扱った195冊からなる世界最大級の手描きの図譜です。作者の春山は、全ての項目に詳細な図が供えられた図譜を作るため、遠方まで調査に出かけ、財産をなげうって本書を製作したと伝えられています。
また『築地名苑真景(つきじめいえんしんけい)・草木虫魚写生図巻』(江戸時代、19世紀、徳川美術館蔵)も必見です。尾張徳川家に伝来した図巻で、草花・虫・魚を的確な描写で表しており、全巻を通じて図譜に肝要な「写生」の精神が感じられます。
巻頭と巻末に、江戸・築地に所在した尾張徳川家の蔵屋敷の風景を配していることから、屋敷に生息した生きものを観察して描いたとも考えられます。
6月11日(日)には、「大名から庶民まで楽しんだ江戸の園芸」と題した、日本で最も充実した園芸関係書のコレクションを誇る雑花園文庫の庫主、小笠原左衛門尉亮軒氏による記念講演会が行われます。
本展で、大名から市井の人々までが知の探究に情熱を傾けた当時の本草学の熱気を、それぞれの作品から感じていただけたら幸いです」
写真よりもリアルで生き生きとした動物や植物の姿を、会場でぜひご覧ください。
【江戸の生きもの図鑑 -みつめる科学の眼-】
■会期:2017年6月2日(金)~7月9日(日)
■会場:徳川美術館・名古屋市蓬左文庫
http://www.tokugawa-art-museum.jp
■住所:名古屋市東区徳川町1017
■電話番号:052・935・6262
■開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
■休館日:月曜日
■アクセス:JR中央線大曽根駅南口より徒歩約10分、名古屋駅バスターミナル10番乗場より猪高車庫方面行で「徳川園新出来」下車徒歩約3分
取材・文/池田充枝