取材・文/池田充枝
日本洋画壇の先覚者として知られる明治期の代表的洋画家、浅井忠(あさい・ちゅう、1856-1907)は、京都に縁の深い画家でした。
絵画研究と万国博覧会視察のため1900年から2年余りフランスに滞在した浅井は、アール・ヌーヴォー全盛のパリで図案研究の必要性を痛感。帰国後、設立準備中の京都高等工芸学校(京都工芸繊維大学の前身のひとつ)に図案科教授として請われると、中央画壇の重鎮の座を捨てて京都移住を決意します。
そして明治35(1902)年から亡くなる明治40(1907)年までの6年間、京都の美術工芸の発展に熱心に取り組みました。浅井は京都高等工芸学校で図案を指導するかたわら、私的には聖護院洋画研究所、関西美術院を他の画家とともに設立し、洋画家養成機関の中心となって若手育成にも尽力しました。
また、遊陶園、京漆園など陶芸家や漆芸家と図案家を結ぶ団体を設立し、自らもアール・ヌーヴォーを思わせる斬新なデザインで京都工芸界に新風を巻き起こしました。
そんな浅井忠が京都に遺した足跡を辿る展覧会「浅井忠の京都遺産 京都工芸繊維大学美術工芸コレクション」が泉屋博古館で開かれています(~2017年7月9日まで)。
本展は、京都工芸繊維大学のコレクションから浅井忠の多彩な足跡を辿ります。あわせて浅井、鹿子木孟郎ら京都画壇の洋画家を支援し作品を愛でた住友家ゆかりの品々も展示し、近代関西の美術工芸、美術教育、生活文化に浅井忠が何をもたらしたかを再考します。
本展の見どころを、泉屋博古館の学芸員、実方葉子さんにうかがいました。
「浅井忠といえばまず絵画を思い出されるかもしれませんが、後半生に手がけた図案(デザイン)の数々は、それらにも劣らない輝きを放っています。風景画の端正さと較べ、浅井のデザインは大胆でスタイリッシュ、時に躍動的でユーモラス。例えば、梅という伝統的な題材をアール・ヌーヴォーを思わせる筒形の花瓶にデザインしたり、大黒さんや鬼など大津絵でおなじみの題材をゆるキャラ風に絵替わりの小皿に仕立てたり。いずれものびやかで親しみやすく、一目で多くの人が虜になってしまうこと、請け合いです。
また京都工芸繊維大学が所蔵する19世紀末から20世紀初頭の欧米の工芸の数々も見逃せません。これは浅井や京都高等工芸学校の同僚ら、新しいデザイン教育を志した教員によって収集されたもので、フランス、ドイツ、北欧、アメリカなど各国のアール・ヌーヴォー全盛期の個性的な造形は、タイムカプセルをのぞく思いです。
本展の開催中、京都工芸繊維大学工芸資料館では、『住友春翠の文化遺産―第五回内国勧業博覧会と京都の近代陶芸』展を開催しています。これは泉屋博古館が所蔵する明治期の京都の陶芸作家に焦点をあてたもの。当館で展示中の浅井忠らの作品との対比も見どころ。しかも、当館の浅井忠展の半券提示で見学できます」
浅井忠の陶芸作品は興味深く見ものです。ぜひ会場に足をお運びください。
【今日の展覧会】
『浅井忠の京都遺産 京都工芸繊維大学美術工芸コレクション』
■会期:2017年5月20日(土)~7月9日(日)会期中展示替えあり
■会場:泉屋博古館
■住所:京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
■電話番号:075・771・6411
■ウェブサイト:http://www.sen-oku.or.jp
■開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
■休館日:月曜(祝日の場合は開館し翌日休館)
取材・文/池田充枝