選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
1947年、ラトビアのリガ生まれのギドン・クレーメルは、名ヴァイオリニストであるのみならず、新しい音楽の潮流を次々と見出す、哲学者のような人物である。
そんな彼がこの20年ほど最も力を入れているのが、自らの音楽的分身ともいえる室内管弦楽団、クレメラータ・バルティカの活動である。彼らの最新盤『ヴァインベルク:室内交響曲第1番‐第4番 他』は、不遇のうちに1996年に亡くなった旧ソ連のポーランド系ユダヤ人の作曲家ミェチスワフ・ヴァインベルクの晩年の作品に焦点をあてたもの。
美しい弦楽アンサンブルが、ときに皮肉や毒を交えながら、静かな霧の立ち込めるような心象風景へと聴き手をう。ピアノ五重奏曲の終楽章では、アイルランド民族舞踊のようなリズムが突然現れるのには驚かされる。
いま世界的に再評価の動きが著しく、マーラーやショスタコーヴィチの〝次に来る〟作曲家になるかもしれない、ヴァインベルクの真価を伝える2枚組である。
【今日の一枚】
『ヴァインベルク:室内交響曲第1番‐第4番 他』
ギドン・クレーメル、クレメラータ・バルティカ他
録音/2015年
発売/ユニバーサル・ミュージック
問い合わせ/045-330-7213
商品番号/UCCE-7538(2枚組)
販売価格/4800円
選評/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ局「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金曜 18:00~22:00放送)。近著に『ルネ・マルタン プロデュースの極意』(アルテスパブリッシング)がある。
※この記事は『サライ』本誌2017年6月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。