取材・文/池田充枝
明治から昭和初期にかけて、日本ではファッションや美意識の一大変革が起こりました。開国後の急速な欧化政策により、西洋式のスタイルが取り入れられるようになり、大正期には女性の社会進出や第一次世界大戦後の好景気にともない、モダンで華やかなファッションが求められ、新しい生活スタイルや娯楽を享受する人々が増えました。
この時代、新たなファッションアイコンや理想の美人のイメージ誕生に大きな役割を果たしたのが、洋画家の岡田三郎助(1869-1939)です。明治末頃から百貨店の仕事や日本初の美人写真コンテストにもかかわった岡田は、女性の装いに敏感に反応して新しい美人像を次々と生み出していきました。大きな瞳と卵型の輪郭が特徴的な岡田の女性像は、百貨店のポスターや雑誌の表紙などを通して広がり、人々の憧れの的となりました。
新しい日本の美人像を生み出した岡田三郎助を中心に、女性たちの美意識の変遷を辿る展覧会が開かれています。(2019年3月17日まで)
本展では、岡田三郎助をはじめ藤島武二、村山塊多らの絵画、化粧道具類、着物、ジュエリーに、ポスター・雑誌などを加えた約200点の展示作品で、新しい女性像の変遷を辿ります。
本展の見どころを、ポーラ美術館の学芸員、山塙菜未さんにうかがいました。
「近代日本洋画の重鎮として知られる岡田三郎助ですが、三越呉服店のポスター原画や婦人雑誌の表紙絵を手がけるなど、実は女性のファッションや流行といった世界とも密接に関係していました。《ダイヤモンドの女》は1908年(明治41)に開催された日本初の本格的な美人写真コンテストの宣伝を目的に描かれており、輝く大きな瞳が印象的な少女像が新しい時代の「美人イメージ」を決定づけたともいえるでしょう。また、着物や古い染織品の蒐集家でもあった岡田は、自らのコレクションをモデルに纏わせた優美な女性像を数多く残しています。今回は、《あやめの衣》をはじめとした着物の女性像と、そこに描かれた岡田旧蔵の染織品を並べて展示することによって、女性の装いに対する岡田の優れた感性を堪能して頂きます。
また、明治期から昭和初期にかけての日本人女性の装いの変遷を、豪華な化粧道具セットや多種多様な国産化粧品、そして大胆な色と柄が特徴の銘仙(めいせん)着物などによって立体的に辿る点も大きな見どころのひとつです。
そうした女性のファッションの変化は、伝統的な画題を重んじてきた日本画の世界にも変革をもたらしました。榎本千花俊(ちかとし)《池畔春興》のように、流行のファッションやレジャーを楽しむ「モダンガール」を描く画家たちが登場したのです。
明治期の欧化政策によって幕を開けた近代には、様々な女性像が描き続けられました。新しい時代を謳歌する彼女たちの姿は、女性の生き方がますます多様化する現代の私たちにも力強く語りかけてくるはずです」
懐かしき言葉「モダンガール」が現代にいきいきと甦ります。ぜひ会場でご堪能ください。
【開催要項】
モダン美人誕生-岡田三郎助と近代のよそおい
会期:2018年12月8日(土)~2019年3月17日(日)
前期展示:12月8日~1月29日 後期展示:1月31日~3月17日
会場:ポーラ美術館 企画展示室
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
電話番号:0460・84・2111
http:www.polamuseum.or.jp
開館時間:9時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:会期中無休(ただし本展のみ展示替えのため2019年1月30日(水)は休室)
取材・文/池田充枝