文・取材/山内貴範
来たる6月10日は“時の記念日”だ。これは、天智天皇の命により設置された、水の流れによって時刻を報せる漏刻という時計が鐘鼓を打った日(671年4月25日)を、現在の太陽暦にすると6月10日になることから制定されたもの。
そんな天智天皇を祀るのが、滋賀県大津市にある近江神宮だ。実はこの神社、国内外問わず時計業界との繋がりも深く、社域には時計好きがうれしくなるような文物も多く見られる。
例えば、境内にある漏刻の複製は時計メーカーのオメガが奉納したもので、中国の“火時計”の複製はロレックスが奉納したものだ。世界的に知名度の高い2大高級時計ブランドの奉納品を見ることができる点でも、稀少な場所である。
さらに時計好きには必見なのが、境内に設置された「近江神宮時計宝物館」だ。江戸時代の和時計から、海外ブランドの懐中時計や腕時計、さらには日本の時計メーカーが奉納した新作の腕時計など、約180点のコレクションがずらりと並ぶ。
なかでも貴重な逸品は、高松宮家(有栖川宮家伝来)から下賜されたという懐中時計だ。制作されたのは約400年前、桃山時代の頃という。近江神宮の山田督さんはこう解説する。
「久能山東照宮に保管されている徳川家康公愛用の置時計とともに、日本に残る最古級の時計の一つとされています。まだ調査段階ですが、内部の機械も交換されることなく、当時のまま残っていると考えられます。日本のみならず、世界の時計史に残る逸品といえるでしょう」
さらに、近江神宮は天智天皇の業績を顕彰するだけではなく、未来へ繋がる活動にも取り組んでいる。
「全国の神社で唯一、付属の時計学校を運営し、技術者の養成を行なっているのです。一般の方々から、動かなくなった時計の修理も受け付けています」
1960年代に世界の頂点を極め、まさに日本のお家芸といえた機械式腕時計の技術。近年、機械式腕時計の魅力が注目されるようになって、再び盛り上がりを見せつつある。近江神宮は、そんな日本の時計の過去と未来を両面から体感できる、世にも貴重な神社なのだ。時計好きなら、一度は訪ねてほしい。
【訪ねてみたい時計神社】
『近江神宮 時計館宝物館』
■住所:滋賀県大津市神宮町1-1(近江神宮境内)
■電話:077-522-3725
■時間:9時30分~16時30分
■休日:月曜(祝日を除く)
■料金:300円
■交通アクセス:京阪近江神宮前駅下車、徒歩約9分。
文・取材/山内貴範
昭和60年(1985)、秋田県羽後町出身のライター。「サライ」では旅行、建築、鉄道、仏像などの取材を担当。切手、古銭、機械式腕時計などの収集家でもある。