文・絵/牧野良幸

オーディオ小僧はレコードをほとんどネットショップで買う。街のレコード店ももちろん愛好しているが、ネットショップは輸入盤などの価格を比較できるから便利なのだ。

しかし、それ以上に数々の誘惑が待ち構えているのがネットショップである。

■1:レコードに特化した情報提示にウズく

たとえばショップのページを開くや、アルバムタイトルの近くに「LPレコード」とか「Analog」と出ていたとする。まだCDに比べて珍しいから、なんと輝いて見えることよ。この文字列を見ただけでオーディオ小僧は襟を捕まえられたも同然である。買いたい気持ちがウズウズとしてくる。

■2:「予約ボタン」が購買意欲をソソる

“予約する”ボタンを見つけたら、もう勝負は着いたようなようなものである。

“購入する”よりも“予約する”のほうが3倍は購買意欲をかき立てる。そして嬉しさも3倍ある。なぜなら現物が届くまでウキウキした気分でいられるからだ。

■3:カスタマーレビューに心動かされる

ネットショップではカスタマーレビューという投稿も無視できない。実際の街のレコード店ではあんなに喋るお客はいない。中には演説に近い人さえいる。もし本当にいたら店の中はうるさくってしょうがない。

しかしネットショップなら別だ。レビューを熟読してしまうのである。時には高名な音楽評論家の批評よりも心を動かされてしまうことさえある。

■4:ドギマギせずにすむ

このようにネットショップは現物を見てもいないのに、文字と写真だけで買い物をしてしまう。いつもは「アナログレコードはジャケットが味わい深いんだよ」とうそぶくオーディオ小僧であるが、それもあやしいものである。

むしろ街のレコード店で本物のレコードを見るとドギマギしてしまうのがオーディオ小僧だ。たとえば喫茶店で芸能人が目の前にいたら緊張して何も話しかけられないだろう。それと同じである。

*  *  *

以上、オーディオ小僧がついネットショップを使ってしまう理由を並べてみた。もちろん街のレコード店にも抗しがたい魅力がある。それは何より(上記4の逆張りだが)「本物」を扱っているという点にある。

芸能人の場合は見て見ぬふりをするのがエチケットであるが、レコードは別である。レコード店であればすぐに手に取れる。それが3枚組のLPボックスならズシリとした感触を味わうだろう。

その重さは、決して安くない価格に見合ったものにすぎない。しかしオーディオ小僧はいつもネットショップのジャケット画像だけで買ってしまう体質になっているから、現実の重さに感激してしまうのだ。

レジに持っていきながら「やっぱりレコードはジャケットを手に取って買うものだネ」と微笑むオーディオ小僧。しかしこれも実はネットショップとのギャップが買わせたこと、と言えなくもない。

もはや現実のレコード店とネットショプとの境がなくなってきたとも感じている、オーディオ小僧である。

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

『オーディオ小僧のいい音おかわり』
(牧野良幸著、本体1,852円 + 税、音楽出版社)
https://www.cdjournal.com/Company/products/mook.php?mno=20160929

 

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