文・絵/牧野良幸

現在発売されるLPレコードは、ほとんどが“重量盤レコード”である。1枚180グラムが一般的であるが、それ以上に重いレコードもあるように思う。今や重量盤は、アナログレコードのお約束にさえなっている。

昔はレコード盤の重さなど意識することがなかった。オーディオ小僧は音楽が聴けるだけで嬉しかったのだ。しかし一度だけレコード盤の厚さを意識したことがあった。高校生の時のオイルショックのときだ。

原材料が高騰したのだろう。レコード盤が見た事もないほどに薄くなってしまったのだ。小学生の時に使った下敷きのようにペラペラで、手にした時は「こんな姿になってしまって」と痛々しかった。

さしずめ、この時のレコードは“軽量盤”と呼んでもいいだろう。誰も望んでいないレコードだった。

やがてオイルショックも過ぎてレコード盤に厚みが戻ると、内外のレコード会社はレコード盤それ自体でハイファイを目指すようになる。ちょうどCDの普及が一段落して、マニアがふたたびアナログに目を向け出した頃だ。

その頃から、アナログレコードはカッティングなど、アナログ技術の粋を注ぎ込んで制作されるようになった。重量盤というのも、その技術のひとつだ。

レコード盤が重いということが、どれだけ音質の向上に寄与しているかは不明である。意見も人それぞれである。でもオーディオ小僧の聴いた感じでは、音の歪みの少なさ、安定感など、重量盤には大変頼もしいものを感じている。

しかし重量盤レコードは音質以外にも満足感を与えてくれる。その「重さ」がたまらないのだ。

ジャケットからレコードを取り出すとズシリとした重さを感じて、これだけでニンマリしてしまう。昔のレコードでは味わえなかった快感だ。

「重さ」の他にも快感を得られるところがある。「厚み」だ。

レコード盤をターンテーブルにのせる時、両手の指で支えるだろう。重量盤レコードは厚みがあるから、エッヂが大きく丸まっており、それが指の腹に当る。この時の感触が気持ちいいのだ。まるでツボを押さえられたよう。

さらに上のクラスとして、厚みをキチンと“長さ”で感じることができる重量盤さえある。数ミリそこらの長さを、指の腹で感じる。

その心地良さときたら、脳がとろけそうである。レコードをターンテーブルにのせずに、このまま持っていたい、とさえ思う。

このように重量盤レコードでは、音楽を聴く前から陶酔してしまうオーディオ小僧であった。

文・絵/牧野良幸
1958年 愛知県岡崎市生まれ。イラストレーター、版画家。音楽や映画のイラストエッセイも手がける。著書に『僕の音盤青春記』『オーディオ小僧のいい音おかわり』(音楽出版社)などがある。ホームページ http://mackie.jp

『オーディオ小僧のいい音おかわり』
(牧野良幸著、本体1,852円 + 税、音楽出版社)
https://www.cdjournal.com/Company/products/mook.php?mno=20160929

 

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