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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「余は今まで禅宗のいわゆる悟りという事を誤解していた。悟りという事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思っていたのは間違いで、悟りという事は如何なる場合にも平気で生きている事であった」
--正岡子規

夏目漱石の親友で俳人の正岡子規は、すぐれた随筆家でもあった。上に掲げたのは、その随筆『病牀六尺』の中に書かれたことばである。

子規は、学生時代から結核を患っていた。肺を蝕んでいた結核菌はやがて背骨をも侵し、脊椎カリエスを発症。漱石が熊本に赴任した明治29年(1898)4月頃には、ほとんど寝たきりの状態になる。
明治33年(1900)9月、漱石が英国留学へ出発する折には、もはや互いに生きて顔を合わせるのは無理だろうと覚悟を決めるほどであった。

子規は体の痛みに苦しみ、身動きできぬ煩悶に苛まれる。時には絶叫し、号泣する。それでも、猛烈な食欲と表現意欲で自己を支えた。自殺の衝動と闘いながら、枕元の小刀と千枚通しのスケッチをしたこともあった。

ロンドンにいる漱石あてに出した子規の最後の手紙の、次のような一節は、なんとも胸にしみる。

「僕ハモーダメニナッテシマッタ、毎日訳モナク号泣シテ居ルヨウナ次第ダ(略)イツカヨコシテクレタ君ノ手紙ハ非常ニ面白カッタ。近来僕ヲ喜バセタ者ノ随一ダ。僕ガ昔カラ西洋ヲ見タガッテ居タノハ君モ知ッテルダロー。ソレガ病人ニナッテシマッタノダカラ残念デタマラナイノダガ、君ノ手紙ヲ見テ西洋ヘ往(いっ)タヨウナ気ニナッテ愉快デタマラヌ。モシ書ケルナラ僕ノ目ノ明イテル内二今一便ヨコシテクレヌカ(無理ナ注文ダガ)。(略)書キタイコトハ多イガ苦シイカラ許シテクレ玉エ」

このような日々の中から紡ぎ出された随筆のひとつが『病牀六尺』。「如何なる場合にも平気で生きている」という表現は、この上もない痛切さに満ちている。

漱石と同年生まれの子規は、今年が生誕150年。明日3月25日からは、神奈川近代文学館で『生誕150 年 正岡子規展--病牀六尺の宇宙』が開催される(5月21日まで)。

いま改めて子規や漱石の生きた時間と向き合って、私たちは何を思うだろう。機会あらば、ぜひとも足を運んで、時空を超える彼らの呟きに耳を傾けたいものだ。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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