隠遁(いんとん)という言葉の語彙を引くと「俗世間を逃れて隠れ住むこと。遁世。庵を結び隠遁する。隠遁者。閑居。わび住まい。」(『大辞泉』)とあります。
隠遁と聞いてまず思い浮かぶのは、鴨長明の『方丈記』ではないでしょうか。鎌倉時代、神官であった長明は上位を望んで果せず、無常を感じて京都郊外の日野山に一丈(約3m)四方の庵を結んで隠遁生活をしました。
世間の喧騒を離れた静かな自然のなかで、四季の移ろいを肌で感じながら悠々自適の生活を送ることができたら、さぞかし心が洗われることでしょう。
思うにまかせないことの多い現実生活のなかで、こうした隠遁生活は人々の憧れの的となり、とくに文人たちは隠遁生活を理想の境地として、その思いをさまざまな形で表現しました。
21世紀の現代にあっても、隠遁という言葉はなぜか人々の心をそそります。そんな隠遁生活をテーマにした展覧会「楽しい隠遁 山水に遊ぶ ~雪舟、竹田、そして鉄斎~」展が、京都の泉屋博古館で開かれています。(~2017年5月7日まで)
本展では、おもに日本の文人たちが理想の隠遁空間をイメージして描いた山水画や、隠遁生活には欠かせない文房具の名品を中心に紹介します。
本展の見どころを、泉屋博古館の学芸員、外山潔さんにうかがいました。
「本展では、雪舟《漁樵問答図》や田能村竹田《梅渓閑居図》はじめ、富岡鉄斎《掃蕩俗塵図》、小田海僊《酔客図巻》、岡田半江《渓邨春酣図》などの山水画が紹介されます。いずれも深山幽谷の地に庵を結んで暮らす、うらやましいばかりの閑雅な世界が描かれています。
また本展では、文人たちが愛玩した精緻な細工が施された中国の文房具も展観します。竹林七賢図筆筒(明~清時代・17世紀)、太湖石置物(明~清時代・17世紀)、白玉香炉(清時代・18世紀)、山水図石彫硯屏(清時代・18世紀)など、机上の文房具にも隠遁の風雅がうかがわれます」
現実のしがらみを忘れて、しばし理想の隠遁生活を、画中に楽しんでみませんか。
【楽しい隠遁 山水に遊ぶ ~雪舟、竹田、そして鉄斎~】
■会期:2017年3月4日(土)~5月7日(日)
■会場:泉屋博古館
■住所:京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
■電話番号:075・771・6411
■WEBサイト:http://www.sen-oku.or.jp
■開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
■休館日:月曜日(ただし3月20日は開館)、3月21日(火)、4月25日(火)
■入館料:一般800円 大高生600円 中学生350円 小学生以下無料、障がい者手帳所持者は無料
■アクセス:京都市バス32、100系統で「宮ノ前町」下車すぐ、京都市バス5、93、203、204系統で「東天王町」下車東へ200m、地下鉄東西線東山駅または蹴上駅より徒歩約15~20分
取材・文/池田充枝