取材・文/池田充枝
日本の詩を代表する和歌は、平安貴族の繊細な美意識により完成された「かな」によって、他に類をみない造形美を生みました。
流麗な線、きわどい字形、緩急自在な字流れとその自在な配置、さらには装飾された料紙(用紙)が響きあって、三十一文字の限られた世界を変化に富むものへと昇華させています。
平安から鎌倉時代に書き継がれた和歌の造形美を広く紹介する展覧会が開かれています。(6月30日まで)
企画展 日本の書―和歌と詩のかたち (会場:泉屋博古館)
本展は、数多くの日本書跡のコレクションを誇る泉屋博古館の住友コレクションから、かな古筆の白眉とされる《寸松庵色紙》はじめ、料紙装飾も美しい歌切、歌会の和歌懐紙、画賛などの優品を紹介します。
本展の見どころを泉屋博古館の学芸課長、実方葉子さんにうかがいました。
「やはりおすすめは平安、鎌倉の古筆歌切。それらはもと冊子や巻物で、多くが当代の書の名手による流麗なかな書、料紙も豪華な貴族のための鑑賞用和歌集でした。
とりわけ《寸松庵色紙》は、かなが洗練を極めた11世紀後半の作で、「継色紙」「升色紙」とともに”三色紙”と称されます。ここでは、月夜の嵯峨野で小倉山の鹿の声に感じられる秋の気配を詠んだ紀貫之の歌がしたためられます。ゆったりと連綿する筆運びや作為のない散らしで三十一文字が表現され、掌サイズの紙面に優れた造形感覚が凝縮されているようです。
そしてもうひとつ、注目したいのは《石山切》(貫之集下)です。これは能書の寄合書による豪奢な冊子本「本願寺本三十六人家集」の断簡で、白河上皇六十賀の献上品と推定されています。筆者の藤原定信は12世紀前半を代表する書の名手で、素早く流れるような運筆で、紀貫之の恋歌四首が表されます。
染紙、破り継ぎ、金銀泥による飛鳥文様などの豪華な料紙装飾はともすれば書家泣かせですが、定信はデザインを活かして、機知に富む散らし書きを軽々とやってのけました。文字と文様の鳥が戯れるかのようで、宮廷歌人の切なく狂おしい恋歌の世界が艶やかに立ちのぼります。
これら歌切は年月をへて掛軸に改装されることとなりました。近世初期の古筆ブームのなか茶人たちがはじめたもので、時の所有者により、思い思いに表装裂が取り合わされた姿もまた見どころのひとつです。」
たおやかでゆかしい日本の書の世界!! 会場でじっくりご堪能ください。
【開催要項】
2019年5月25日(土)~6月30日(日)
企画展 日本の書―和歌と詩のかたち
会場:泉屋博古館
住所:京都市左京区鹿ケ谷下宮ノ前町24
電話番号:075・771・6411
開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日
https://www.sen-oku.or.jp/kyoto
取材・文/池田充枝