取材・文/藤田麻希
狩野派、土佐派、円山派など、日本美術には多くの流派がありますが、そのどれとも違う特殊な流派が「琳派」(りんぱ)です。
血縁関係でもなく、師弟関係でもなく、作風に影響を受けて自発的に真似する「私淑」という形で、京都で活躍した俵屋宗達(たわらや・そうたつ)、本阿弥光悦(ほんあみ・こうえつ)から、尾形光琳(おがた・こうりん)、江戸の酒井抱一(さかい・ほういつ)・鈴木其一(すずき・きいつ)へと伝播していきました。俵屋宗達と尾形光琳、酒井抱一の活動時期には、100年以上の開きがあることからも、実際に会うことすらなかったことがわかります。
その特徴には、中国ではなく日本の風景や事物を描く「大和絵」の伝統をベースにしていること、大胆な構図や豊かな装飾性、絵画だけでなく書や工芸も含めたジャンルレスな創作活動などが挙げられます。
そんな琳派の作品を豊富に所蔵している美術館の一つが、熱海にあるMOA美術館です。毎年早春に限定で公開される、尾形光琳の国宝「紅白梅図屏風」がもっとも有名ですが、他にも琳派の作品はたくさんあります。それらを公開する展覧会《琳派―光悦と光琳》が現在開催されています(〜2018年7月17日まで)。
同館のコレクションは、創設者の岡田茂吉(1882~1955)氏が10年程の間に集めたものが中心になっています。岡田氏は青年時代に美術評論家の岡倉天心に会い、「新しい日本絵画の将来は光琳を現代に生かすことにある」という考えを聞き、深い感銘を受けたそうです。作品の収集を始めるのは何十年も後のことですが、このことが、尾形光琳や琳派の作品を集中的に集めるきっかけになったのかもしれません。
MOA美術館学芸員の河野泰典さんに、今回の展覧会の構成をご説明いただきました。
「今回の展観は、当館の琳派コレクションの中から厳選した作品を、本阿弥光悦と尾形光琳を中心に、作家別に展示しています。
第一室では、最初に「寒山拾得図」をはじめ、尾形光琳の水墨表現の作品に続き、光琳・乾山合作「銹絵寿老人図角皿」など、尾形光琳と尾形乾山の工芸作品の優品を集めました。
第二室では尾形乾山(深省)筆「籠梅図」や「雪松図」など、乾山晩年の絵画作品と乾山のやきものの記念碑的作品、乾山作「色絵十二ヶ月歌絵皿」を使って調和ある展示を試みました。次のコーナーでは光琳筆「草紙洗小町」や光琳筆「秋好中宮」など、光琳の物語絵の秀作の数々を味わっていただきます。
第三室は、光琳や乾山が私淑した本阿弥光悦・俵屋宗達の作品を観ていただきます。
最初に、光悦筆・宗達下絵「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」や光悦筆「花卉摺絵新古今集和歌巻」など、光悦の金銀泥下絵の書の作品群を展示します。続いて、俵屋宗達筆「軍鶏図」をはじめとする、墨の濃淡やたらし込み(墨が乾かないうちに濃度の違う墨をたらしてできた滲みを生かす技法)で表現された、宗達の水墨画。
さらに、大和絵の手法や主題を展開させた俵屋宗達筆「伊勢物語 西の対」や「西行物語」など、宗達の物語絵などから、王朝文化の復興を目指した光悦や宗達の芸術感覚の片鱗に触れていただければと思います。
最後に、江戸後期に活躍した酒井抱一の作品で締めくくっています。
彼は、文化十二年(1815)光琳の百年忌には遺墨展を開催し、江戸での光琳顕彰に努めました。本展では、抱一筆「藤蓮楓図」や「雪月花図」の2作品から、琳派研究に真摯に打ち込んだ抱一の気概を感じていただけるでしょうか。
工芸や絵画にとわられることなく、今なお私たちの生活のなかに生き続ける装飾芸術の粋、琳派の魅力に触れていただければ幸甚です」
2017年2月にリニューアルオープンして以降、MOA美術館の琳派コレクションが一堂に会するのは初めてのことです。相模灘を見渡すことのできる気持ちの良い美術館で、作品を堪能するのはいかがでしょうか。
【展覧会概要】
琳派−光悦と光琳
会期:2018年6月08日(金)~7月17日(火)
会場:MOA美術館
静岡県熱海市桃山町26-2
電話番号:0557-84-2511(代表)
公式サイト:http://www.moaart.or.jp/
開館時間:9時30分~16時30分 (最終入館は16時まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:木曜日(祝休日の場合は開館)
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』
※参考文献:『尾形光琳とMOA美術館』朝日新聞社 1983年