われわれの食卓に欠かすことのできない磁器。日本で生産がはじまったのは、今からおよそ400年前。朝鮮出兵の際に連れてこられた陶工の一人、李参平(りさんぺい)が、肥前国有田(現在の佐賀県有田町)で、磁器の原料となる陶石を発見し、焼成に成功した1616年と考えられています。ちなみに、伊万里焼とも呼ばれるのは、肥前一帯で作られた磁器を伊万里港から出荷したためです。
朝鮮の陶工が伝えた技術をもとに発展した肥前磁器ですが、手本となったのは、当時中国から輸入していた景徳鎮窯の染付でした。やがて、1640年代に入ると明王朝が清王朝に滅ぼされ、内乱が勃発。日本に逃れてきた中国人の陶工が、色絵をはじめとする、朝鮮にはなかった様々な技術を伝え、肥前磁器は更に改良されます。
また、1658年に清朝が貿易を禁止し、中国磁器が他国へ輸出できなくなったため、日本及び東南アジアやヨーロッパの磁器需要が肥前に集中し、生産量が増加しました。「濁手」と呼ばれる乳白色の素地に、余白を活かしながら繊細な絵付けを施す、柿右衛門様式の皿や人形は、特にヨーロッパの王侯貴族に好まれました。
そんな肥前磁器の歴史を振り返る展覧会が、根津美術館で開かれています。中心となるのは、タイルの施工販売を行うとともに、タイル研究家でもあった山本正之氏から、同館が寄贈を受けた山本コレクションの作品。678点から選りすぐった131点が会場を彩ります。
根津美術館学芸員の下村菜穂子さんは、次のように説明します。
「山本コレクションは、技術が発達した17世紀後期の染め付けを非常に多く含んでいます。たとえば『染付蝶文綾花皿』は、蝶を描いた色紙が二枚重なっています。染付の色も何種類かの濃淡で使い分けられ、白と青のコントラストが美しい作品になっています」
中国陶磁の写しではない、日本人好みの文様や形の器も登場しました。
「『染付雪柴垣軍配形皿』は、軍配の形をしたお皿です。見込みには雪が降り積もった垣根が描かれています。このような模様は、これまでの中国のやきものにはありませんでした」(下村さん)
「染付誕生400年」というタイトルですが、染付だけではなく、色絵なども含めた肥前磁器の歴史を概観できる内容になっています。日常生活でも馴染み深い、磁器のルーツを知ることができるチャンスです。
【コレクション展 染付誕生400年】
■会期/2017年1月7日(土)~2月19日(日)
■会場/根津美術館
■住所/東京都港区南青山6-5-1
■電話番号/03・3400・2536
■料金/一般1100円 学生(高校生以上)800円
*20名以上の団体、障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料
■開館時間/10時から17時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日/月曜日
■アクセス/地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅下車 A5出口(階段)より徒歩8分/B4出口(階段とエスカレータ)より徒歩約10分/B3出口(エレベータまたはエスカレータ)より徒歩10分、都バス渋88 渋谷~新橋駅前行南青山6丁目駅下車 徒歩約5分
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』