美術の制度の外側にある人たち、すなわち独学者や子どもたちによって生み出された美術表現を「アウトサイダー・アート(Outsider art)」と呼んでいます。1972年に、イギリスの美術史家ロジャー・カーディナルの著書『Outsider Art』で提唱された概念です。
それより先、第二次世界大戦後にフランスの画家ジャン・デュビュッフェが、独学者や精神病者の表現に高い創造性を認めて「アール・ブリュット(生の芸術)」と呼びましたが、それをカーディナルが言い替えたものといわれます。
既成の芸術流派や傾向、様式にとらわれることなく、自然に表現したアウトサイダー・アートは、絵画や彫刻だけでなく服飾、映像、文学、音楽など広範な分野に及んでいます。
そんなアウトサイダー・アートとはどんな芸術か、具体的に知ることができる展覧会「アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国」展が名古屋市美術館で開かれています。(~2017年4月16日まで)
本展は、アウトサイダー・アート/アール・ブリュットを代表する芸術家アドルフ・ヴェルフリ(1864-1930)のの画業を回顧する、日本初の大規模な個展です。ヴェルフリの主要な作品のほとんどを所蔵する、スイス・ベルンのアドルフ・ヴェルフリ財団の全面的な協力によって実現しました。
本展の見どころを、名古屋市美術館・学芸課の蒲原貴子さんにうかがいました。
「スイスのベルン郊外の貧しい家に生まれ、悲惨な幼少年期を送ったヴェルフリは、31歳でヴァルダウ精神科病院に入院し、68歳で没するまでの生涯をこの病院ですごしました。
病院内でヴェルフリは『揺りかごから墓場まで』と題する壮大な自叙伝を描きます。それは、ヨーロッパからアジア、南北アメリカの科学的探究にはじまり、神々との結婚と聖アドルフ王国の設立、空想上の惑星への旅行へと拡大するというヴェルフリ独自の世界観を、45巻全25,000ページにわたって表したものでした。
シュルレアリスムの画家たちの注目を集め、多くの芸術家に影響をあたえて世界的に高い評価を受けているヴェルフリ。本展は、ヴェルフリ作品の神髄にふれる絶好の機会です。どうぞヴェルフリ王国をご堪能ください」
本展は、東京ステーションギャラリー(4月29日~6月18日)に巡回されます。
【アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国】
■会期:2017年3月7日(火)~4月16日(日)
■会場:名古屋市美術館
■住所:名古屋市中区栄2-17-25 芸術と科学の杜・白川公園内
■電話番号:052・212・0001
■WEBサイト:http://www.art-museum.city.nagoya.jp
■開館時間:9時30分~17時、金曜日は20時まで(入館は閉館30分前まで)
■休館日:月曜日
■料金:一般1300(1100)円 大高生800(600)円 ( )内は20名以上の団体料金、中学生以下無料、身体障がい者手帳所持者と付添者2名までは半額
■アクセス:地下鉄東山線・鶴舞線伏見駅5番出口より徒歩約8分、鶴舞線大須観音駅2番出口より徒歩約7分
取材・文/池田充枝