取材・文/藤田麻希

アメリカ最大級の美術館であるボストン美術館は、その名称・規模から公共の美術館をイメージする方が多いかもしれませんが、じつは国や州の財政援助を一切受けていません。

ボストンの財界、教育会、文化界を代表する有志によって1870年に設立され、1876年のアメリカ独立100周年の記念日に正式に開館。アメリカでも最も古い歴史をもつ美術館の一つです。約50万点という驚異的な数の収蔵品は、王室や特定の富豪のコレクションだけを元にしたものではなく、市民やその他のコレクターから寄贈を受けたり、スポンサーなどの資金的援助を受けて購入したもので構成されています。

現在、東京・上野の東京都美術館では、ボストン美術館のコレクションから、古代エジプト美術から現代美術まで古今東西の選りすぐりの作品を集めた「ボストン美術館の至宝展―東西の名品、珠玉のコレクション」が開催されています(~2017年10月9日まで)。

今回は、ボストン美術館のコレクションを特徴的づけている日本美術のコレクションのいくつかをご紹介しましょう。

*  *  *

ボストン美術館と日本美術の関わりは古く、19世紀に遡ります。大森貝塚の発見者として著名なエドワード・シルヴェスター・モース、東京大学で教鞭をとったアーネスト・フランシスコ・フェノロサ、モースとともに来日した医師のウィリアム・スタージス・ビゲローら、1870年代から80年代にかけて日本に滞在した外国人が日本美術を集めました。

ときは、明治維新の変革の時代、大名家や有力寺院から手放された美術品は貴重なものが多く、彼らは、日本国内にあれば国宝、重要文化財と目される作品を手にする機会を得たのでした。のちに、その多くのコレクションがボストン美術館に収蔵されました。

10万点を超える同館の日本美術コレクションには、「奇想の画家」として近年注目を集める江戸時代の絵師・曾我蕭白(そが・しょうはく)とその流派の作品が、40点以上含まれています。

そのうちの1点、「風仙図屏風」は、渦巻く黒雲に剣を持った男が立ち向かう様子が描かれます。従者と思しき男性二人は、あわてふためきながら逃げ、背後には驚いた様子の兎がいます。現実にはあり得ない水しぶきや風になびく衣服の形にも注目です。

曾我蕭白《風仙図屏風》江戸時代、1764年(宝暦14年/明和元年)頃 155.8cm x 364 cm 六曲一隻、紙本墨画Fenollosa-Weld Collection, 11.4510 Photograph (C)2017 Museum of Fine Arts, Boston

浮世絵のコレクションも充実しており、版画だけで5万点、手描きの肉筆画も700点以上収蔵しています。喜多川歌麿「三味線を弾く美人図」は、世界に50点程度しか確認されていない、歌麿の貴重な肉筆画のうちの1点です。

喜多川歌麿《三味線を弾く美人図》江戸時代、1804-06年(文化1-3年)頃 41.5cm × 83cm 一幅、絹本着色 Fenollosa-Weld Collection, 11.4642 Photograph (C)2017 Museum of Fine Arts, Boston

諧謔的な風俗画で知られる江戸時代の絵師・英一蝶(はなぶさ・いっちょう)による「涅槃図」は、縦3メートル近い巨大な仏画。その大きさと経年劣化から、25年以上の間公開されてこなかったのですが、このほど大規模な解体修理が行われ、日本での里帰り展示が実現しました。

英一蝶《涅槃図》江戸時代、1713年(正徳3年)286.8cm × 168.5cm 一幅、紙本着色Fenollosa-Weld Collection, 11.4221 Photograph (C)2017 Museum of Fine Arts, Boston

東京都美術館学芸員の大橋菜都子さんに展覧会の見どころを伺いました。

「本展では、ボストン美術館のコレクションを築き上げてきたコレクターにも注目してご紹介しています。

例えば、清の乾隆帝も愛蔵した《九龍図巻》は、たった一人の個人の寄付金によって購入された作品。本展で初の里帰りを果たした英一蝶《涅槃図》は、フェノロサが日本で購入し、その後大富豪ウェルドがボストン美術館のために買い取りました。

日本・中国で生み出された作品が、どのような人の手を経て、海を渡り、ボストン美術館へ辿り着いたのか、そうした点もぜひお楽しみください」

日本美術の数々の名品を含むボストン美術館のコレクションを東京で拝見できる好機です。ぜひお運び下さい。

【ボストン美術館の至宝展 ― 東西の名品、珠玉のコレクション】
■会期:開催中~2017年10月9日(月・祝)
■会場:東京都美術館 企画展示室
■住所:東京都台東区上野公園8-36
■電話番号:03-5777-8600(ハローダイヤル)
■公式サイト:http://boston2017-18.jp
■開室時間:9時30分から17時30分まで、金曜日は20時まで(入室は閉室30分前まで)
■休室日:月曜日、9月19日(火)ただし、9月18日(月・祝)、10月9日(月・祝)は開室

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

 

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