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「傷は浅い、大丈夫だ」(竹内綱)【漱石と明治人のことば40】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】
「傷は浅い、大丈夫だ」
--竹内綱

明治15年(1882)4月6日、自由党総理(党首)の板垣退助が遊説先の岐阜で暴漢に襲われるという事件が起きた。このとき板垣が口にしたとされるのが、余りにも有名なあの台詞「板垣死すとも自由は死せず」であった。

遭難した板垣のすぐ傍らには、ひとりの男が付き添っていた。それが同じ土佐出身の志士・竹内綱。竹内は、板垣の血まみれのシャツを短刀で切り裂いて傷口を確かめ、掲出のことばで励ました。

実際、傷は思ったほど深刻なものではなく、板垣の命に危険が及ぶことはなかった。とはいえ、衝撃的なダメージを受けたことに変わりはない。このときの板垣の被害短刀は、今も高知市立自由民権記念館に残されている。あるときの取材で、それを実際この手にとって見たときの感慨は忘れがたい。

心身に激しいダメージを受けた折に側にいて、「大丈夫、大したことはない」と励ましてくれる人がいると、当人はどれほど勇気づけられることだろう。

戦前の帝国議会の衆院議長もつとめた竹内綱は、実のところ、ワンマン宰相・吉田茂の実父だ。吉田茂は東京・神田で生まれ、生後まもなく、竹内綱の親友にして横浜で貿易商を営む吉田健三のもとに養子に出されたのである。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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