和食の魅力を伝える活動に取り組んでいるキッコーマンは昨年より、国内外で活躍するプロの料理人を招いた「料理サロン」を定期的に開催しています。プロの技を解説付きで見ることができるだけでなく、実演した料理を実際に味わえるとあって、好評を博している講座です。
そこで、今年から新たにスタートしたのが「江戸の食文化と料理サロン」シリーズ(全4回)です。第1回のテーマは「江戸の食の魅力<鮨 すし>」。江戸時代に屋台から生まれた鮨は、今や日本の代表的で伝統的な食文化のひとつとなりました。
明治43年に創業、100年以上に渡って伝統の味を守り続ける、東京・大森海岸『松乃鮨』の四代目・手塚良則さんが、鮨職人の手仕事について伝える貴重な講座に参加してきました。
■鮨職人の仕事を鮮やかに実演
『松乃鮨』は創業107年の老舗。まだ冷蔵庫のなかった時代に江戸で誕生した握り鮨は、江戸前の海で獲れた新鮮な魚介か、煮る・焼く・締めるといった調理を施したものをタネとして用いていました。ですから、そのような調理技術も、鮨職人が誇る伝統のひとつ。手塚さんはこの日、店に代々伝わる「煮だこ」のつくり方を実演しました。
「下拵えが大切です。生のたこを塩でもんでから、麺棒でしっかり叩いて繊維を壊しておくことで、柔らかく煮上がります。また、煮るときは、脚の先端から煮汁に入れないと、きれいに丸まらないのです」
細やかな調理のコツを説明しながら、調理を実演する手塚さん。食材の味を引き出す職人の手仕事のひとつひとつが、日本の食文化の魅力であることを実感させられます。
日本人が最も好むタネといえば、やはりマグロ。手塚さんは「自分が扱う食材は、実際に自分の目で見たい」という思いから、海流の激しい青森・大間でマグロ漁船に乗ったこともあるそう。そこで実演したのが「マグロの漬け」です。一度サッと湯通ししてから氷水にとり、醤油をベースにした漬け汁に浸して、半日かけてゆっくりと味を染み込ませるのがポイント。握ったときに、見た目も美しく仕上がるのだそうです。
鮨に欠かせない山葵の食べ比べも、参加者の興味を引きました。下の写真は、どちらも同じ山葵をすりおろしたものですが、部位が異なります。右は辛味の強い先端で、左は辛味が弱く甘味のある茎側。お店では味が偏らないようにするため、1本をすりおろしたら混ぜて使用しているとのこと。
■親子二代で、穴子の握りを実演
キッコーマンで開催される「料理サロン」のお楽しみは、昼食を兼ねた試食。この日は、先付けとして前述の「煮だこ」に始まり、お造り3種のほか、鮨は握りと太巻きが供される、豪華な内容でした。
そしてこの日、いちばんの見所となったのが、親子二代で魅せる「穴子の握り」の実演。四代目が焼いた穴子を、三代目の父・良明さんが手早く握ってツメを塗り、参加者全員に「温かいうちに召し上がってくださいね」と、提供しました。
■鮨は「おもてなし」の文化でもある
「鮨は一人ひとりのために握るもの。若い人か、ご高齢の方かによって、シャリの大きさを変え、それによって魚の厚みも変えます。握る相手のことを考えて仕事をする。鮨職人にとって、それが当たり前の“おもてなし”なんです」
世界に誇れる日本文化「おもてなし」の心も、鮨文化で受け継がれてきたもののひとつ。手塚さんはそんな風に考えています。
また、創業から100年以上続く店の伝統を受け継ぐと共に、昔とは異なる新しい潮流も受け止めているといいます。
「今は世界中からお見えになるお客様に、対応していかなければならなくなりました。ですから、お酒も日本酒だけでなく、ワインも置いていますし、私自身もソムリエの資格を持っています。海外では、日本を代表するものを尋ねると、必ず“鮨”という言葉が出てきます。鮨屋の四代目に生まれたからには、世界に誇るこの文化をしっかり受け継いで、次の世代につないでいきたいですね」(手塚さん)
和食の素晴らしさを伝えるための取り組みのひとつ、キッコーマン「江戸の食文化と料理サロン」。次回開催についての詳細はキッコーマンのウェブサイト(https://www.kikkoman.co.jp/)に随時掲載されます。貴重な機会を是非、お見逃しなく。
取材・文・写真/大沼聡子