今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。
【今日のことば】
「役人は人民の召使いである。用事を弁じさせるために、ある権限を委託した代理人のようなものだ。ところが委任された権力を笠に着て毎日事務を処理していると、これは自分が所有している権力で、人民などはこれについて何等の喙(くちばし)を容(い)るる理由がないものだなどと狂ってくる」
--夏目漱石
数年前、厚生労働省の職員が、マイナンバー制度の導入に備えた社会保障分野でのシステム構築事業にからんで、ITコンサルタント会社から賄賂を受け取っていたという事件があった。嘆かわしいことだが、今にはじまったことではない。
だからこそ、小説『吾輩は猫である』の中にも、掲出のことばが書かれている。
人間というものは、権力を行使できるような優位な立場につくと、しばしば勘違いして横暴に走る。本来、市民のために働く公僕であるはずの官僚が、身勝手に権力を振り回し、時には不正にまで手を染める。そんなことはもっての他だと、漱石は注意を促すのである。
先日は、文部科学省の違法な「天下り」の問題が表面化し騒ぎとなった。文科省の前局長の早稲田大学への再就職に際し、同省が国家公務員法に違反して組織的な斡旋(あっせん)をおこなったというのである。
文科省は大学への補助金配分や学部新設の許認可などに強い権限を有しており、そうした天下りによって官民癒着を招き、税金の使い方や金額がゆがめられる恐れがある。文科省はもちろんのこと、受け入れた大学側にも問題があろう。
OBのひとりとして、忸怩たる思いもある。校歌にうたわれる「学の独立」が泣いている。
文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。