道長と藤式部の約束とは?
I:さて、私が気になったのは、道長がおもむろに藤式部(まひろ/演・吉高由里子)の局を訪ね来た際のやり取りです。藤式部は、「道理を飛び越えて敦成様を東宮に立てられたのはなぜでございますか?」と道長に尋ねます。それに対する道長の答えが「お前との約束を守るためだ」でした。これは直秀(演・毎熊克哉)のような無残な最期を遂げる人間をなくそうという約束だったかと思います。そういわれて藤式部はなにも言葉を返せませんでした。「道長さま、それはちょっとちがうのでは?」とも思ったかのようにも感じましたが……。
A:かつてまひろと交わした「約束」を免罪符にしているような気もします。
I:「道長、それでいいの?」といっておきましょう。
A:さて、そんなこんなで三条天皇が駆け引きをしかけてきました。前述の通り、三条天皇は、蔵人頭を務めていた愛妻娍子の弟通任(みちとお)をさらに立身させるために、蔵人頭から外して、その席に道長三男(源明子の二男)である顕信を据えようと打診します。ところが道長は、ファミリー全体の利益を優先して、ファミリー個人の栄華は二の次という冷徹な判断をくだします。
I:このくだりも藤原行成(演・渡辺大知)の日記『権記』に記録されています。面白いのは『栄花物語』では出家する顕信と道長の間でお涙頂戴的なやり取りが交わされる点ですね。事の真相についてはわからないのですが、劇中で描かれた顛末が真相に近いような気がするのですよね。
A:出家するとは、世を捨てるようなもの。俗世における死にも相当します。ですから、母親である明子の怒りも理解できるわけです。なんといっても顕信はまだ19歳。左大臣の三男としてそれなりに昇進していくことが約束されていた顕信の突然の出家は、母明子にとって衝撃だったと思います。
I:母の源明子の咆哮が印象的でした。19歳の息子の前途が断たれたのですから怒りますよね。瀧内公美さん、渾身の演技に胸が熱くなりました。
【ドラマの最終盤で武士が登場する意味。次ページに続きます】