ライターI(以下I):一条天皇(演・塩野瑛久)が崩御した後、悲しみに包まれてばかりもいられないと、藤壺では、「皆が楽しめるような催し」、中宮彰子(演・見上愛)主催の和歌の会が開かれました。赤染衛門(演・凰稀かなめ)、藤式部(まひろ/演・吉高由里子)に加えて、和泉式部(演・泉里香)が歌を詠じて、和泉式部が道長嫡男の頼通(演・渡邊圭祐)に思わせぶりな視線を投げかけるなど、寸分の無駄もない展開が続く中で、清少納言(ききょう/演・ファーストサマーウイカ)が椿餅を持って藤壺にやってきました。印象的なのは清少納言が「喪服」だったことです。
編集者A(以下A):敦康親王(演・片岡千之助)からの進物が椿餅。清少納言も語っていましたが、一条天皇が好んだということでした。第13回では、入内したばかりの定子(演・高畑充希)が「帝の好きなものを私も好きになる」という流れの中で、一条天皇が自分の好きなものは、「母上と椿餅と松虫」と定子に伝える場面があったことを思い出します。
I:亡き一条帝と皇后定子の思い出の椿餅を持参するなど、涙がこぼれそうになりますね。椿餅は日本で生まれた生粋の和菓子の中でも最古のもののひとつといわれています。蒸した米を乾燥させて砕いた道明寺粉を丸め、甘葛の汁を煮詰めたもので甘みを付け、椿の葉ではさんだお菓子です。『源氏物語』の「若菜上」帖で、蹴鞠の後の饗宴の際に供されたお菓子でもあります。ですから、あの場にいた面々にはお馴染みのお菓子だったのではないでしょうか。
A:しかし、藤壺での清少納言の態度は高慢ちきでした。「もう敦康さまのことは過ぎたことにおなりなのでございますね」「ここは私が歌を詠みたくなるような場ではございませぬ」と、中宮彰子にそんなことをいってもしょうがないのにと思った視聴者も多かったのではないでしょうか。当然、彰子の女房らにも不評だったようです。藤式部も日記に書き残すのですが、「清少納言こそ、したり顔にいみじうはべりける人(※)」で有名な清少納言評の箇所につながるという展開でした。
(※)清少納言は実に得意顔をして偉そうにしていた人です。
I:ああ、なるほど、こういう展開にするわけですね、と、いつものAさんの表現を借りると「膝を打つ」という感じになりました。劇中でさんざん仲の良さげな関係のふたりでしたが、『紫式部日記』に悪し様に書かれた「清少納言評」との整合性をここでつじつま合わせてきたんですね。凄い! あえて仲良しをアピールすることで、決裂が余計に悲しいものになるのですよね。
【姉の発案で兄弟が集う。次ページに続きます】