出産時の物の怪と寄坐

『紫式部日記』の描写を再現。(C)NHK

I:さて、中宮彰子は、道長の私邸土御門第で出産しました。劇中では、物の怪が寄坐(よりまし)にとりつき、それに対抗するために、僧侶などによる大音声での読経が行なわれました。古代物の怪世界のリアルな再現でけっこう衝撃的な場面になりました。

A:これも『紫式部日記』が記録してくれたおかげですよね。蛇足になりますが、あの場面で読経している僧侶も三井寺や仁和寺の僧で、しかも源倫子(演・黒木華)の兄や甥という身内が動員されていたようです。これは、『評伝 紫式部』(増田繁夫著/和泉書院)の受け売りになりますが、同書には、母屋の図解が掲載されていたり、紫式部の序列などが論考されていたり、興味深いですね。

I:大音声での読経といえば、一昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも阿野全成(演・新納慎也)と文覚(演・市川猿之助)が藤原秀衡(演・田中泯)を呪詛するために繰り広げた読経合戦を思い出します。なぜか全成の妻の実衣(演・宮澤エマ)まで参加していたのには笑いました。

A:そういえば、『鎌倉殿の13人』では、仲のよかった木曽義高(演・市川染五郎)が亡くなり傷心の大姫(演・南沙良)のために全成が義高の霊を呼び出そうとします。ところが、大姫は「紫式部の霊を呼び出してほしい」と懇願するという場面がありました。

I:ああ、ありましたね。そんなシーン。当時大姫を演じていた南沙良さんが、『光る君へ』で紫式部の娘藤原賢子を演じることになっています。なんだか楽しみですね。

A:このころはこうした呪詛だとか読経を真剣に取り組んでいたのでしょう。それを『紫式部日記』の記述で知ることができるわけです。そうした中で、藤原伊周(演・三浦翔平)が自ら呪詛を行なう様子が描かれました。

I:結局、伊周は、最後まで道長に抗う姿勢を崩さなかったことになります。「それもまた人生」ということになるのでしょうが、父道隆(演・井浦新)が早死にしなければ、伊周こそが栄耀栄華に包まれた人生を謳歌したかと思うと、世の無常を感じざるを得ません。

A:伊周の今後も気になりますね。

道長(演・柄本佑)を呪い続ける伊周(演・三浦翔平)。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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