藤式部と中宮彰子の関係

I:中宮彰子がすっかり藤式部(まひろ/演・吉高由里子)に信頼を寄せるようになりました。藤式部は中宮彰子に白居易の『新楽府』を進講します。「人の心の好悪  はなはだ常ならず 好めばもううを生じ にくめば疵を生ず」というのは、「人の道」を説いているわけです。

A:藤式部が中宮彰子に進講したのは事実なのですが、中宮彰子に進講する人物の人選に道長が関与していないとは思えませんので、道長はやはり藤式部の才能を認めていたのでしょう。劇中では、中宮彰子が藤式部を優遇することに、女房たちがぐちぐち文句を言っている場面も登場しましたが、知識として「人の道」について理解していると思われる女房たちも嫉妬する気持ちを抑えられないというのが「人間の性」を表現しているようで面白いです。

I:学問ができて、優秀な成績で中央官庁に入り、県知事となったエリートだったら「パワハラはNG」であるという知識は持っているはずです。知識としてわかってはいても実際には自制することができないということが、現代でも起こっています。人間の性は古今問わず変わらないということなのでしょう。人の心をもっともざわつかせる最大の要因は「人間関係」だとよく言われます。1000年前も今も人々は人間関係に悩まされるわけなんですね。

A:そうした心はやがて、粗探しに転じることがあるということを体現してみせたのが、左衛門の内侍(演・菅野莉央)。こともあろうに「左大臣様のまなざしと藤式部のまなざしが絡み合っていて、もうたまりませんでしたよ」と吹聴します。この場面から得られる教訓は「壁に耳あり、障子に目あり」でしょうか。1000年たった現代には、さらに音声を収録されたり、動画を撮影されるというリスクも加わりました。

『紫式部日記』の誕生

I:さて、こうした中で、「中宮様のご出産の記録をつくってもらいたい」と道長が藤式部へ依頼します。

A:中宮彰子の出産、そして皇子誕生後の一連の儀式を記録している『紫式部日記』ですね。ちょうどこの頃は、『日本書紀』から始まり、『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三代実録』と続いた国史の編纂、俗に六国史といわれていますが、『日本三代実録』の完成(901年)後、続編編纂の動きはあったものの途中でとん挫している時期です。

I:六国史は漢文体ですが、この時期花開いた仮名文字で歴史を記録した方が、「読んでいてこっちの方が面白くない?」ということだったような気もします。

A:あ、意外とそうかもしれないですね。実際六国史より『栄花物語』のほうが読み物としては面白いですものね。もしかしたら、道長プロデュースで、藤式部には『源氏物語』や『紫式部日記』を、赤染衛門(演・凰稀かなめ)には歴史物語(『栄花物語』)を記述させたのではないかと思ったりします。

I:もしそのような意図があったとしたら、1000年後に『光る君へ』という形で、『栄花物語』や『源氏物語』をベースにした物語が紡がれているわけですから、道長の策略は見事に成功したと言っていいと思います。

A:なるほど。六国史の話題が出たので脱線しますが、『日本三代実録』以降途絶えていた国史編纂事業は、明治になって「再開」することになります。史料集という形で今も刊行が続いている『大日本史料』がそれです。東京大学の史料編纂所で編纂されている大事業。完結はいつになるのでしょうか。

出産時の物の怪と寄坐。次ページに続きます

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