ライターI(以下I):『光る君へ』第36回では、敦成親王誕生「五十日の賀」が「無礼講的」に行なわれた様子が描かれました。
編集者A(以下A):道長(演・柄本佑)が「無礼講である」って言ってましたよね。無礼講といえば、実際にあったかどうかはともかく『太平記』に描かれた後醍醐天皇らの乱痴気宴会が想起されます。平安中期にも「無礼講」的な宴会があったんですね。劇中では、「五十日の賀」が描かれたわけですが、皇子誕生以来、産養(うぶやしない)の儀式が連日執り行なわれ、それが『紫式部日記』に詳述されているということで、現代の私たちが、皇子誕生に沸く道長の様子を知ることができるわけです。
I:劇中では描かれませんでしたが、皇子のおしっこが道長の直衣を濡らしてしまい、道長がそれを喜んだという「じじばか」エピソードも『紫式部日記』が出典ですものね。
A:敦成と命名された皇子はすぐに親王宣下を受けて敦成親王となりました。誕生50日を祝う「五十賀の儀」の場面が『紫式部日記』をトレースした形で描かれました。興味深い箇所なので、『紫式部日記』の原文を参照しましょう。
右の大臣(おとど)よりて、御几帳のほころび引き立ち乱れたまふ
(右大臣が寄っていらして、御几帳の垂絹の開いたところを引きちぎって酔い乱れなさる。)
その次の間の、東の柱もとに、右大将よりて、衣の褄、袖ぐち、かぞへたまへるけしき、人よりことなり
(その次の真の柱下に、右大将(実資のこと)が寄りかかって女房たちの衣装の褄や袖口の襲(かさね)の色を観察していらっしゃるご様子はほかの人とは格段に違っている。)
A:こういう場面に触れると、改めて平安貴族はなんに対してもとことん「全力投球」だなと思うわけです。陣定、入内工作、国司らとの折衝、荘園、信仰 そのうえ、文章のうまい人間を発掘して物語をプロデュースする。宴席も羽目を外しまくって全力で堪能する。
I:ここで藤原公任(演・町田啓太)が「若紫のような美しい姫はおらぬか」と戯言を藤式部(まひろ/演・吉高由里子)にぶつけるあまりにも有名な場面がついに大河ドラマに登場しました。本当に本当に感慨深いです。これでまひろ→藤式部→「紫式部誕生」ということになるのでしょうか。
A:『紫式部日記』では公任の問いを聞き流して、心の声を記しているわけですが、劇中では心の声を口に出していました。そりゃそうなりますよね。
【式部と道長の和歌のやり取り。次ページに続きます】