一瞬カットインした猫に思うこと

I: ところで、中宮彰子懐妊の知らせがもたらされた際に、その報を受ける源倫子の場面に一瞬だけ猫がカットインしました。この猫は、入内前の中宮彰子(演・見上愛)がともに暮らしていた小鞠(演・ひげ)かと思われます。小鞠は彰子の猫というよりも、土御門第の猫ということなのですね。

A:『光る君へ』では物語の前半に、源倫子の愛猫小麻呂(演・ニモ)がわりと頻繫に登場して、猫好きの大河ドラマファンを楽しませてくれました。

I:倫子のサロンに出席している貴族の若手子女が、公達たちの打毬の会を見学に行きましたが、倫子は愛猫の小麻呂を連れて来ていました。ところが小麻呂が逃げてしまって、まひろが探しに行ったのですよね。雨に濡れた小麻呂が印象的でしたが、その場面で、『源氏物語』の「雨夜の品定め」を彷彿とさせる藤原公任や斉信(演・金田哲)らによる「地味でつまらぬ女」発言が飛び出したんですよね。

A:ということで、これだけ猫が登場するからには、絶対に「命婦のおとど」のエピソードが描かれると期待していた愛猫家がたくさんいたのではないでしょうか。

I:私も、「絶対くる!」と思っていたのに、一向にその気配がなくて、ちょっと残念な思いをしていました。『枕草子』にも出てくる実在猫なのに、「画竜点睛を欠く」って感じでした(笑)。

A:一条天皇自身がたいそうな猫好きで、愛猫の出産後には産養(うぶやしない)の儀式を盛大に敢行し、胞衣塚を作ったりして、ほとんど人間扱いだったと言われています。そもそも、宮中に入るためには位が必要ということで、官位を与え、「命婦のおとど」と命名していたくらいです。藤原実資の日記『小右記』には、「内裏の御猫、子を産む。女院・左大臣・右大臣、産養の事有り。(略)猫の乳母、馬命婦。時の人、之を咲ふと云々。奇怪なる事なり。(略)未だ禽獣に人の礼を用ゐるを聞かず。嗟乎」という記述があります。

I:産養の儀式に参加した女院は、東三条院詮子(演・吉田羊)、左大臣は道長、右大臣は顕光ですね。大真面目に猫のために儀式を行なう場面を実資は嘲笑していたようですが、私はそんな場面を劇中で見たかったなあ、と今でも思っているのです。もしかしてスピンオフでやってくれるのですかね?

A:当欄ではこれまでも「スピンオフを期待!」と何年も前から言ってきましたが、実現したためしがありません。当たり前といえば、当たり前ですが、それでも「命婦のおとど」はやってほしいですね。

久々登場のおひげちゃん演じる小鞠。(C)NHK

藤式部と中宮彰子の関係。道長プロデュースの『紫式部日記』。仮名で記録した歴史は面白い?【光る君へ 満喫リポート】『紫式部日記』編に続きます

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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