藤式部の恋愛指南が面白い
I:さて、御嶽詣でから帰ってきた道長が、さっそく藤式部(まひろ/演・吉高由里子)のもとを訪れ、物語の進捗具合を尋ねました。藤式部、ちょっと自信ありそうな顔をしていましたね。
A:今回、藤式部が仕上げたのは、『源氏物語』の中でも特に有名な「若紫」の帖。光源氏が若紫の姿を見て、連れ帰ってしまうという、現代的な感覚からすると「おいおい」と言いたくなるようなエピソードですが、当時からするとさもありなん、だったのでしょうかね。ドラマの中では、どうかと思う、といったようなことを発言していた女房がいましたが、これはおそらく藤式部の物語が話題となっており、種々の議論がなされただろうという想像と、視聴者の気持ちを代弁させてあれこれ女房達に語らせたのだと思います。
I:藤式部はこの帖を書いたことについて、「わが身に起きたことでございます」と、不義の子を産んだ話を自分の経験だと道長にほのめかしました。道長も、心ではわかっているけれど、あえてそれ以上は突っ込まなかったですけど、私としては、突っ込んで欲しいと思ってしまいました。このふたりはもう、恋愛感情を越えた同士になっちゃったんですかね。寂しい気もします。
A:苦悩する光源氏の歌として「見てもまたあふよまれなる夢の中に やがてまぎるるわが身ともがな」(大意:こうしてお会いできても再びお逢いできても再びお逢いできる夜はめったにありません。この夢の中にこのまま消えてしまいとうございます)が取り上げられていました。『源氏物語』に散りばめられている795首の和歌のひとつですが、ドラマの中での藤式部の気持ちとも重なるようでした。
I:「世語りに人や伝へんたぐひなく うき身をさめぬ夢になしても」(大意:語り草として人は伝えることでしょう。類なきつらい身を覚めない夢としてしまったとしても)もなんだかふたりの関係を思わせるものがあります。
A:「ひとたび物語になってしまえば、わが身に起きたことなど霧のかなた。まことのことかどうかもわからなくなってしまうのです」という台詞は記憶に残るものになりそうです。まさに「壮大なるエンターテインメント」を強く体現する台詞。藤式部の表情も何か言いたげで、でも言えないでいるといった感じで、大河ドラマ史上というよりも、日本のドラマ史にも刻まれる台詞のような気がしてなりません。
I:おもしろいなと思ったのは、中宮彰子が、若紫が自分のようだと語り、光源氏の妻にして欲しいと藤式部に訴えたところです。こうやって、実際にこういうことがあったかもしれない、と思わせるのが、このドラマの絶妙なところですね。藤式部の声で「若紫」が読まれている背景で、藤の花が開花していく様子が映し出されて、とてもドラマティックでした。紹介された和歌も暗示的で、かの有名な「若紫」の別解釈を見たような、そんなドラマの演出でした。
【一条天皇と中宮彰子、ついにその時がやってくる。次ページに続きます】